めぐる白痕

ギィ、とベッドのスプリングが音を立てる。宿主不在の保健室は妙に静かで、しんと張り詰めた空気は外の音から遮断された別空間の様でさえあった。
「零とこうなる気は無かったんだけどなー?」
視線と天井を挟んで見えるのは旧知の仲である零の穏やかな笑み。嗚呼、組み敷かれるなんて屈辱だ、と思いながらも心に余裕はある。
「心外じゃな?まぁ、我輩もそうじゃけど」
「ほら、そう言う。どうせ俺がΩだってお見通しだったんでしょーが」
「ななしはαだと思われがちだからのう…」
「装うのは得意だからね、うん」
上手い事話題を逸らせばこの現状を抜けられると思ったのも束の間、零の右手は肩から顎へとするりと移動をする。くい、と軽く持ち上げられる顎。薄く開いた零の口から赤い舌が覗く。
「さておき…、可愛い声で鳴いておくれ?」
万事休す。αにはどう足掻いても性質的に到底勝てないΩな自分を呪うのか、それとも何処ぞの誰かに喰われるよりは相手が零である事に安堵するべきなのか、果たして答えは何方にあるのか。
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