だれも知らない祝福のこと

ざらざらと音を立てて薬を流し込むように飲む行為は彼に必要であるとは言え、目に余るものがあった。新たな薬に手を伸ばそうとする手首を掴み、その行為を阻止する。取れないんだけど、と此方を見る瞳が物語っていた。
「飲みすぎじゃ」
「これが俺の必要量なの、零にはΩだってバレたから知らないだろうけど。俺はこれぐらい飲まないと隠せないんだから」
αに見られる者としての明確な理由があるからと言え、はいそうですか、と手を離せる事ではない。αもΩも抑制剤はあるものの、ななしの様に乱用を重ねていれば時期に体に悪影響が出てくる事だろう。彼の薬量を知っている唯一の者として、旧知の仲としても、望ましくない未来を分かりきった上で放っておける程、出来た人間ではない。
「…それなら、我輩と番にならんか?」
一言一句、ハッキリと伝える。今思いついた訳ではない。彼の薬量が減り、発情期を抑えられるのなら可能性の一つとして考えていた。反面、一族のしがらみをななしに背負わせてしまうとしても、だ。
「冗談なら気休めでも辞めてくれない?言っていい事と悪い事が」
「冗談などではない、我輩は本気で言うておる」
「零…。あんたさ。勿体無いよ、俺なんて」
「ななしだから、に決まっておるじゃろ」
冗談ではない事が伝わったのか、掴んでいたななしの手は力が抜け切ったのか、ぶらりと項垂れる。同時に伏せられた表情も見えなくなる。一つ、大きな溜息を吐いた後、顔を上げたななしは首元に掛かっている髪をすくい上げ、細い項を曝け出した。
「その言葉、信じて良いんだよね」
「勿論じゃ」
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