我としてあれ

「何で我輩には言うてくれんのか…?」
棺桶の上に押さえつけられた肩に掛かる力とは正反対に、眉を下げ、泣きそうな程へこたれた情け無い表情を浮かべる零の姿は新鮮そのものだった。

事の発展は昔の友人と他愛の無い話をしていた時に遡る。偶々、ななしを探しに来た零にその様子を見られたかと思うと状況は一転。別れの言葉を告げるや否か、力強く腕を引かれ、無言の零に連れて行かれた先は軽音部部室。嗚呼、これは怒っている。そう思った時には既に背中は棺桶の蓋へ押し付けられていた。そのまま強引にでもされてしまうのか、と頭の片隅で覚悟をしたところで冒頭に戻る。

結局、零はななしを傷付けられない。彼の優しさが許さない。大層、生きづらいだろうに。
伸びた両の手は、零の後頭部に触れる。よしよし、と慰める様に髪を撫でると視線が交わる。
「くくっ…」
「何で笑うんじゃあ」
「いや、別に。零は本当お人好しっていうか、ね。そこが良いんだろうけど」
「この状況で褒められておる気がせんわい…」
軽く力を込めると、引き寄せられるかの様に降ってきた頭はななしの肩口に埋まる。多少なりとも体格差かある分、体重を預けられると重い。それでも彼を撫でる手は離せなかった。
「俺はそういう零の方が好きだよ」
同じ様に大人びた態度をとったり、格好つけようとしたりする者同士だからこそわかる。些細な事で嫉妬をしたり、弱くて、情けない姿を見せたくないと。でも、そっちの方が人らしく、ありのままの朔間零を知れる事は、友人だからか。それとも番だからか。今は何方でもいい。
ALICE+