極彩色は掴めない

流石に朝イチでお弁当を二つ作れる程の料理力は備わってない。手にした二つの菓子パンを揺らしながら見つけた探し人は此処が廊下だという事は気にも止めずルーズリーフに殴り書かれた五線譜に彩りを与えていた。ぽすん、と音を立ててその頭にパンを乗せる。ここまで来てやっと存在を認識されるのだ。
「んん?ななしだ」
疑問を抱いた声。何で、と言いたそうな顔をしていたものの答えを言う前に待って!言わないで!阻止が入る事は安易に想像がつく。追求されると本来の目的からまた逸れてしまうであろう。先手必勝、床に散らばるルーズリーフを寄せ集め、回収すると同時に手持ち無沙汰になったレオの手に強制的にパンを収める。よし、これで目的は果たされた。
「パンだ」
「パンです、レオさんまた食べてないでしょ」
「そう言えば忘れてたな!」
わはは、と賑やかな笑い声が廊下に響き渡る。此処でパンを食べるのは如何なものかとは思うが、場所を変える道中でインスピレーションが湧かれてもそれはそれで困る。そのままレオの隣に座り込み自分用のパンの袋を開けた。隣から似た様な音が聞こえたので、レオも昼食タイムに移る様、思わず安堵の溜息がでる。昼食も取らず、曲作りに没頭する姿は初心者ながらもプロデュース科に所属している身として尊敬に値する。その人と肩を並べてパンを食べている現実もまた不思議な事だ。ちらりと視線を移せば、もう食べ終わったのか新たルーズリーフを用意するレオと視線が合う。
「ななし、ありがとな!」
「どういたしまして」
にこり、と向けられた笑顔は一瞬にして作曲家への顔に変わる、まるで百面相。こうなって仕舞えばもう気を引くことは不可能だ。こちらも負けじと新曲へのインスピレーションを働かせることにしよう、ポケットからメモ帳を取り出した。
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