窓際攻防戦

開け放たれた窓から風が舞い込む。
ふわり。
甘過ぎなく、心地よい香りがななしの鼻を掠める。
肩先でくるんと形を変える薫の髪が風に乗せられ視界の先でふわりふわりと揺れ動くのを目で追いながら香りの正体をななしは探し求めた。ななしなりの答えに辿り着いたのは考えてから数十秒も経たなかった。直感で感じ取った瞬間に距離は零になる。
「薫、何かいいにおいする」
背後から肩を掴まれる。強くない力とはいえ、引き寄せられる行為に対応が出来なかった薫の身体は自然とななしの身体に身を預ける。それと同時に伸ばされた襟足が掛かる肩口に寄せられたななしの顔が埋められた。くん、と小さく鼻を鳴らす。
「っ!ちょっ…と、ななし。何やって…」
一瞬の不意打ち。
危うく溢れ落ちるかと思った甘い声を抑え、否定でも受け入れでもない無難な言葉で薫は余裕を繕う。人影は少ない放課後の教室とはいえ別段甘いような雰囲気ではなと言うのに、スマートフォンをなぞる指が一点で止まる。
香水でもない、シャンプーだろうか。と、無自覚にも近いななしが起こした行動はぐらりぐらり、薫の理性を揺らがすのには十分過ぎた。
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