愛されたがりの君へ

「ふ…っ」
呼吸する暇すら与えられない口付けに吐息が零れ落ちる。奪われていく酸素と熱に浮かされた頭ではまともな判断も出来ないまま力が抜け落ちていく身体からは壁に背中を預けたのも意味はなく、そのままずるずると滑り落ちていく。床を背に落ちていくななしに覆い被さるように薫も身体を預けた。口付けだけはそのまま続く、何一つ言葉を発しない薫の想いが込められているかのように。
「かお、る」
合間に名前を呼ぶと薫の動きは止まった。頬に添えられた手は気が付けばななしの熱が伝わったのか暖かい。不規則な呼吸を落ち着かせ、薄く開いた瞳は伏せ目がちな薫を捉えた。
「やめないで薫。もっと、もっと俺に頂戴。薫を頂戴」
似た色の髪に手を伸ばしくしゃりと撫でる。ふわふわとした毛先が手に馴染むのが心地よい。
「ありがと」
ぽつり、小さな声で薫が呟いた。眉をひそめ笑みを浮かべる表情は泣いてる様にも見えたが綺麗だと盲目の様に思えてしまう、薫は綺麗だ。そう思うとななしの口元は自然と笑みが浮かぶ。
貪欲な思いは底を尽きる事はなく、求められたい一心。自惚れかもしれないが薫に求められていると思える事で満たされる。それだけで十分なんだ、再び降り注がれる口付けを前にななしはゆっくり目を閉じた。
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