閃堂秋人と両片思い


 

通販で可愛い服を買ったから、どうせならこれに合う靴とかアクセサリー、ついでに新作のコスメも見たいなって思っただけ。友達と都合が合わなかったから、まあいいかって駅直結のショッピングモールに1人で出かけただけなんだけど、これはどうしたものか。
目の前には全然知らない上に好みじゃない男がディフェンスするみたいに立ち塞がっている。ずっと拒否してるのに全然めげない上に奢るからお茶しようって、絶対嫌なのに腕掴まれて、最悪。こういう時ってどうすればいいの。パニックになりかけていたら、背後から声が聞こえた。


「ナマエから手放してくんねえ?」


急に横に立った人が私を抱きしめるみたいに肩を抱きよせる。今度は何?誰?助けてくれたの?というか、なんで私の名前知ってるの。ナンパ男が舌打ちしながら立ち去って、おそるおそる視線を動かした先にはやわらかいサーモンピンク。瞬間、ぶわりと数年前の記憶が蘇る。うそだ、どうして?


閃堂秋人くん。高校の同級生で、友達の彼氏の友達みたいな、たまに話すことがあるって感じの男の子。ひっそりいいな、とは思ってたけど、なにも告げずに卒業してそれきりだ。卒業後の噂でプロの選手になったと聞いたときは、これはだいぶ高嶺の花に恋していたものだと笑ったけれど、それがなんでここにいるの。


「大丈夫だった?なんもされてねえ?というかナマエだよな?」
「え、うん、大丈夫。ありがとう。てかよく覚えてたね」
「そんな昔のことじゃなくね?え!?もしかして俺のこと忘れた!?」
「忘れないよ、閃堂くんでしょ。というか、戻ったほうがよいかも」
「え?あ、やべ、服」


きっとこの近くのショップに居たんだろうな。それでなぜか服を腕にひっかけたままショップを飛び出して通路で一悶着起こしてたものだから、店員さんは困ったように「お客様……?」と声をかけてくるし、道ゆく人もなんだなんだとこちらを見ている。プロのサッカー選手ってこんなところで悪目立ちしていいものなの。絶対だめでしょ。


「やっべ待って戻る。ちょ、ちょっと待ってて!いやだめ置いてったらまたナンパされる」
「おちついて、一緒にいこ」
「あっえっありがと」


色んな意味で心臓がばくばくしてたはずなのに、私より大慌ての閃堂くん見てたら一周回って冷静になってきた。この一瞬ですでに知らない一面どころか三面くらい見ている気がする。
店員さんに謝ってお会計しながら俺かっこわりい……ってへこんでる閃堂くんに思わず笑ってしまう。後先考える暇もなく助けに来てくれたの、嬉しかったし格好よかったけどなあ。


「ごめん勝手に連れ回しちゃって。大丈夫?」
「大丈夫だよ。それより助けてくれてありがとう」
「いやまじ外見たら知ってる子がナンパされてて焦ったわ」
「あの一瞬で顔と名前一致するのもすごいけどね」
「いやまあ絶対忘れらんねえというか、未練たらたらというか……」
「え?」
「ウワなんもない忘れて」
「?」


近くのベンチに座って、ちゃんとお礼を言うついでにじっと確認する。やっぱり閃堂くんだ。学生時代より幼さが抜けて、ちょっと大人びた気がする。でも、慌てたりへこんだり、そういう時はあの頃とあんまり変わってない顔になるから胸がきゅんとする。とっくに忘れたつもりだったんだけどなあ。


「つーか相手どこにいんの?こんな可愛い格好してさあ、1人にしたらだめってわかるじゃんフツー」
「……?怒られている?わたし」
「いやナマエに怒ってるわけじゃねえよ」
「???」


やたらと辺りをきょろきょろして、誰を探してるの?というか、わたしじゃないならなおさら誰に怒っているんだ。相手って誰だ。話がぜんぜんわかんない。


「まじで全然出てこねえし、なんなんだよ。そんなやつほっといてデートの相手俺にしませんか……」


ちょっと拗ねるみたいにどんどん声が小さくなってて最後の方なんかろくに聞き取れなかったけど、わたしが誰かとデート途中だと思ってる?それで、今の台詞が出てきたということ?ねえ、それって、


「……略奪?」
「エッいやそういう、ことには、なっちゃうか……」


ぎょっとした後に自分の言ったこと理解してどんどんしょも……と萎れていく閃堂くん、とてもおもしろい。学生時代、たまに目が合うことはあったけど、恥ずかしいわ緊張するわでなにを話していいのかわかんなくて笑って誤魔化していたのを思い出す。こうして話してみるとすごく話しやすいし楽しいじゃん。


「略奪じゃないよ」
「え?」
「今彼氏いないもん。今日も1人で来てるし」
「エッ!?」


あわあわしてる閃堂くんはなんかもにょもにょやった!とかいやでもそんなんナンパ無限湧きじゃんとかなんとか言ってる。首を傾げていたら彼は私のほうをじっと見て、懇願するみたいに口を開いた。


「あの……、またナンパされても困るんで俺も一緒に買い物していい……?」
「……デートじゃなくていいの?」
「ワ、エッ、や、よくない、けど」
「あは、冗談。ひさしぶりに会ったんだしさ、色々話そうよ。先にカフェ行こ、お礼もさせてほしいし」


ちょっとからかったら閃堂くんはちいかわみたいになっちゃったあと、じわじわと顔が綻んで、そうする、と心底嬉しそうに笑うから、始まる前に終わった恋がまた動きだす予感がした。