ドン・ロレンツォとクリスマス
サンタがおもちゃを枕元に置いていくようないい子でもなけりゃ、いい子にしてりゃサンタさんが来るなんて親が言い聞かすような真っ当な家庭でもなかった。スナッフィーに拾われて、ようやく雪が舞う冬の日に行われていたきらびやかな催しの意味を知った。
私は、本人からそんな話を聞いたとき、彼のこれからの人生で迎える聖夜はすべて完璧で幸せなクリスマスでありますようにと強く願った。過去を全部上書きするくらいに幸せな記憶しか残してほしくなかった。だから、スナッフィーと協力して過去のクリスマスはその時点でできる最高のものにしてきたつもり。でも、今年のクリスマスはスナッフィーが用事があるらしくて私とロレンツォの2人きりになる。ということは、私にこの年のクリスマスのすべてが任されるということだ。……なにから手をつけたらいいんだろう。頼りになりすぎる大人に任せていた弊害がここにきて大きすぎる。
とりあえず、クリスマスといえばプレゼントである。今年は何をあげようかと悩んで、そういえば彼は今や将来有望のサッカー選手で、すでに莫大な年俸を貰っていることを思い出した。スナッフィーならともかく、私の買える範囲で欲しいもの、あるのか?あるならそんなものもう既に買ってしまってないか?というか欲しいものがお金だったらどうしよう。バイト増やすとかそういう話でどうにかなる額?
「……で、直接聞きに来たってワケ?」
「本人に聞くのが一番かなって」
「だぁーナマエってたまに変なトコあるよなぁ」
「あくまで私はサンタさんの代理よ。で、どうしよう。やっぱとりあえずバイト増やそうか」
「ハ?ヤダ。ナマエに会いたいときすぐ会えねぇのとかムリ。だからダメ。理解OK?」
「だからって連絡なしで深夜に来るの辞めなさいよ」
「音立てねえようにしてんじゃん」
「だからこそ起きた時びっくりすんのよ」
脱線しがちな会話をなんとか軌道修正して、「今何が1番欲しい?サンタさんが用意できるものならなんでもいいわよ」と、既にちょっとボロが出ているまま話を進める。あんまり細かいこと聞いてないロレンツォは、ナマエに貰えるモンかあ、とゆらゆら揺れながら考え込んでいる。サンタさんだって言ってんでしょ。しばらく経って長身がぴたりと止まり、あ、と閃いたような声をあげた。思いついた?と聞くと、あー……と珍しく言い淀んでいて首を傾げる。
「だぁ〜、欲しいモン、あるっちゃある」
「お、なになに。サンタさんがあげられる範囲のもの?」
「……わかんねぇ」
「えっ何?そんな高価なもの?」
「あー……」
高価っつーか、なんつーかぁ……と頬を掻きながら口をもにょもにょさせるロレンツォは本当に珍しい。なんだろう、車とかだったら厳しいな。
「とりあえず言ってみてよ」
「…………ナマエ」
「へ?」
「ナマエがいい。ナマエの心も身体も、これからの人生も、全部」
「…………おお」
「金にしたら多分スゲー高ぇだろ?だからサンタにゃ無理じゃねぇ?」
「……いいえ、サンタさんに不可能はないわ」
「……まじでぇ?」
「でも、ロレンツォ。貴方にもそれなりの対価は払ってもらうけどいいの?貴方の心も身体も、これからの人生も私が貰うわよ?」
「だぁ〜それでほんとに貰えんの?……まじ?ほんとに?そんならナマエに全部あげるから、ナマエの全部ちょうだい」
クリスマスの朝にプレゼントを開けた子供みたいに、心底嬉しそうに笑ってるロレンツォのことがとびきり愛おしくなって、「……ロレンツォはいい子だから、特別に愛もいっぱいつけてあげよう」って力いっぱい抱きしめた。クリスマスまでに役所で紙を貰ってこよう。指輪は2人で選びたいな。サンタってすげーなぁって感心してる君と、これから先も聖夜を祝うために。