仁王和真は彼女に甘い


 

玄関を開けたら中で女が蹲っていた。
思わずドアを開けたまま立ち尽くす。声こそ堪えたものの、時刻が日付が変わる頃なのも相まって普通に怖い。が、この家に入れる人間なんか鍵持ってる俺ともう1人以外存在しないわけで。フリーズした頭と身体をなんとか動かして、ドアを閉めつつ玄関の段差に腰掛ける女の名前を呼んだ。


「ナマエ?」
「……あ、和真だあ」


半分寝かけていたのだろう。ぼんやりと顔を上げたナマエは来ちゃった、と頬と鼻を赤くしながらへにゃへにゃと笑った。おかえりぃと首に手を回してハグしてくるのを抱き止めるが、触れた手は冷え切っていて眉を顰める。なんで玄関で冷えてんだ、せめて部屋に入れと正しい文句を言っても、マイペースにねーブーツ脱げない。脱がして?と首を傾げる姿に眉間の皺が深くなったのがわかる。靴脱げなくて諦めんな。


「おま、待て。この状態で1人で来たんか」
「うん。友達と解散して、なんとなく会いたくなって、来た。けど、そういえば和真も忘年会だったなって」
「危ねーな……。俺が帰んなかったらどうするつもりだったんだよ」
「朝帰りぃ?悪い子だなあ」
「言ってる場合か……!」


とりあえず靴を脱がせて、しがみついて離れない彼女を抱き抱えて部屋の中に入れる。暖房付けてある程度部屋の中が暖かくなってもナマエの頬の赤みはそのままで、かなり酔ってやがるということだけはわかった。この状態で1人で外を歩くな、俺を呼べ。というかそもそもこうなるまで外で飲むな。ずっと叱られているというのにナマエは上機嫌ににこにこ笑っているからこっちの機嫌は最悪だ。そんな可愛い顔でひとりで外歩いてんじゃねえよ。


「ちゃんと聞いてんのか」
「んー、ん?ごめんきいてない。ちゅーしたいなって思ってた」
「こいつ…………」
「ねーしていい?てかする」


ぐんにゃりもたれかかってくる身体をやめろ酔っぱらいと押し返すけど、えー据え膳だよ据え膳と膨れているから手に負えない。こんな状況じゃなけりゃありがたく食ってるものを、どうせ寝るに決まってる。それでも懲りずにべちべち腕を叩いてくるから、根負けして触れるだけのを一度だけ。幼いそれにも満足げにえへへと笑っているから、変に欲を煽られて舌打ちする。本当、とんだ据え膳だ。


「あーもう風呂入ってこい」
「え、泊まっていいの?」
「この時間にこの状態で帰すわけにもいかねえだろ」
「えへへ、やさしーね。和真も一緒にはいる?」
「入んねえ」




シャワーの途中寝やしないかと若干ひやひやしていたけれど、数十分後に出たよ〜と元気に出てきたまではよかった。湯上がりでほかほかしているナマエは間違って夏物を引っ張り出したらしい。この寒いのにハーフパンツを履いているのを笑ってやりたかったのに、別のところに目がいってそれどころじゃない。


「オイ、なんだそのアザ」
「んえ?何があ?」
「膝、両方アザ出来てんじゃねえか」


両膝に青あざが出来ていて見るに痛々しいのに、本人はあれ?ほんとだ。転んだのかな?え〜、なんかあったっけ?とおぼろげな記憶を探している。あまりに危機感というものがなさすぎてこいつもう家から出さねえ方がいいのか……?と真剣に考えてしまう。


「マジで今後酒飲むの禁止な……」
「ええ〜?そんなあ」
「そんなもクソもあるか。危なっかしすぎるわ」
「じゃあ和真といるときだけのむ」
「アー、それなら。いやでもなあ……」


毎回今みたいに散々煽られるのか……と考えるだけで大きな溜息が出る。それをNoだと認識したのか、やだあ!ゆるして!かわいく酔います!と宣言しているナマエに可愛いのは困んだよ……とわけのわからない返答を返すことになるし、案の定わかってないナマエがおねがい!とべたべたまとわりつくのに耐えることになるしで散々だ。
しばらくして電池が切れたのか、ぎゅう、と抱きついたまますやすや寝息を立て始めたナマエをベッドに運ぶ。どこまでも勝手な彼女なのに、振り回されてる自分の口元がうっすら笑っているのを自覚する。まあここまでストレートに甘えられるのは誰でも気分がいいもんだろ。

ベッドに下ろした時にん、とゆるく目を開けて、だいすき、とふやふや笑うナマエに、まあ家で飲むのは許すか、と考えてしまった俺は確実に彼女に甘い。