ドン・ロレンツォとひと休み


 

誰もいないはずの部屋の外から物音が聞こえる。ドアをそっと開けると、音なんかたてなかったはずなのに映画を見ていたロレンツォはばっとこっちを振り返った。そうだと思った。というかなんで気付いたの。

時刻は21時を大きく過ぎたところ、残り少ない仕事を家に持ち帰って、気がついたらこんな時間だ。自分の家と私の家、ついでにスナッフィーの家をうろうろしている私の彼氏は今日は我が家を寝床に選んだらしい。いつもより少し音量の小さい映画を一時停止して、おわった?という顔をしている。私が部屋にいる時は仕事中だから静かにしていること、という言いつけをちゃんと守っている。とても偉い。偉いから床にぼろぼろ溢れてるキャラメルポップコーンは見ないことにしてあげよう。

「あとちょっと、でも休憩!」

伸びついでに大きく手を上に伸ばしていたら、「だぁー、まだおわんねーのぉ?」と文句を言いながら寄ってきたロレンツォに勢いよく抱きしめられてよろける。ひしっと抱き止められているのには安心するけど、そろそろ自分の大きさを理解してほしい。

「ナマエ仕事しすぎじゃねぇ?もっと俺を構って!OK?」

構おうとしてもいっつもどこにいるのかわかんないのはロロの方じゃん、と笑ったらだから一緒に住もうって言ってんのにさあと頭の上に顎を置かれてうりうりされた。痛い!
ぎゅうぎゅうと抱きしめていたロレンツォが離れて、顔を覗きこんでくる。これはキスしていい?のサイン。ずっといい子で待ってたしなあ。いいよ、とちょっと背伸びしながら目を瞑ると途端にかさついた感触。ふにふにと唇の感触を楽しんだ後、彼ご自慢のつややかなゴールドが下唇を甘噛みする。ざらついた舌をあわせると、すぐに口の中がキャラメルでいっぱいになって、これ以上ないってほどの甘さに溺れそうになる。でも、本当に溺れたみたいにすぐに息が苦しくなってしまうから、彼の胸を軽く叩いて終わりを告げた。は、は、と彼の胸に寄りかかって息を切らす私を見るロロは全然余裕そうに目を細めてこっちを見ていた。ああ、くちびるにリップが移ってる。かわいいな。

「ロロ」

手を伸ばすともう一度、だと思ったのか目をとろかせて顔を寄せるので、手のひらで止めるついでに口元に残っていたリップをぬぐい取る。
む、と口を尖らせてあからさまに不服です!と表明する長身を退けてキッチンへと向かう。帰宅してから軽いものは食べたけど、それじゃあやっぱりお腹がすく。

「なんか食べよ、ロロもいる?」

ああでもポップコーン食べてたっけ、と言いながら振り向くと、両手でがっちりと両頬を捕まえられる。あ、と声が漏れる前に、さっきよりちょっとしっとりした唇がリップの取れた口に噛みついた。がぶり!

「こっち先に食べる♪OK?」

ねえまって全然OKじゃない!と騒いでも、その細身のどこにそんな力があるのか聞きたくなるくらい軽々と持ち上げられてはなす術がない。
伸びる猫のように抱きあげられながらちゅ、ちゅと顔や耳にいくつもいくつもキスを落とされる。くすぐったさに身を捩れば「イヤ?」と悲しげに眉をひそめて、ああ、その顔に私が弱いってわかってて!

「……ロロがかわいいからゆるしてあげる」
「だぁー、俺かわいくてよかった♪」

うれしい!がだだ漏れのにんまりとした笑顔がやっぱり可愛いから、抱っこされたまま髪をわしゃわしゃにかき混ぜてやる。ちょっとだけ髪がぱさついていて、ねえまたトリートメントサボったでしょう。わかんの?わかるよ、いっつも撫でてるんだからと笑うといつもの口癖で鳴いたあと、じゃあ後で一緒にシャワー浴びよ、とベッドに2人で転がり込んだ。

「起きてられるくらいにしてよね」
「だぁー、もっと体力つけてくれよぉ」
「現役アスリートと一緒にしないで」

服に手をかけながら、私の上で頬を膨らませているロレンツォの耳殻をゆっくりとなぞる。顔を寄せるロレンツォに、とびきり甘い声でやさしくしてってこと、と囁いた。可愛い可愛い彼は顰めっ面して唸りながら、それでも柔らかく唇を押しつけて私の笑い声を飲み込んでいく。そうして、愛おしい私たちだけの夜が始まるのだ。