閃堂秋人はお酒に弱い


 

「ごめんちょっと閃堂飲ませすぎちゃってさあ、ずっとナマエちゃんのこと呼びながら泣いてるから迎えに来てやってくんねえ?」

22時ちょっと過ぎ、愛空くんから連絡があった時、私はお風呂上がりでパジャマ姿だった。ううん、めんどうくさい。でもなあ、とすぐに思いなおして頬をゆるめる。べろべろに酔った秋人くん、子供みたいで可愛いんだよなあ。
わかったすぐ行く、と返して着替えて軽くお化粧をして髪をまとめる。送られてきたURLは駅前の居酒屋で、うん、ここならすぐ行けそう。

わたしの彼氏さまはお酒にそんなに強くないくせに飲みたがるから、酔っ払うと箸が転がっても笑ってたりぎゃんぎゃん怒ってたりめそめそ泣いてたり、かと思ったら寝てたりする、らしい。わたしの前では格好つけてあんまりそういうところ見せてくれないのに。
それでたまに私に回収依頼が来て、へにゃへにゃになってる秋人くんを私の家にお持ち帰りするのだ。毎回朝ベッドの上で俺変なことしてないデスカと正座してるのが面白くて、ちょっと面倒でも許してしまう。変なことする前にすぐ寝ちゃうくせに。だからこうして酔ってる間に本音が聞けるのがちょっと嬉しかったりする。

車を走らせて近くのパーキングに停める。夜だからもう空いてて助かった。キャッチのお兄さんたちを潜り抜け、目当ての居酒屋は、あ、あそこ。

寄ってきてくれた店員さんに迎えです、と言いながら店内を見渡してたら、すみっこのテーブルにちっちゃくなった桜色と大きい背中が目に入る。近づくとスマホを触ってた愛空くんが振り返って手を振ってくれた。

「閃堂よかったな〜ナマエちゃん来てくれたぞ」

机に突っ伏してた秋人くんはにやにやしてる愛空くんの声に無言で顔をあげた後、「……ナマエ?あえ、ほんとにナマエだ」とにへ、と笑った。笑ったはずみに真っ赤な目からぽろ、と涙が溢れて胸が痛くなる。どうしたの、なにがそんなに悲しかったの。大丈夫?と声をかけたらナマエだ〜!ってにこにこ笑顔で。ぜんぜん話通じてない。けど、まあなんか、いいか。笑ってるし。ご機嫌だし。
とりあえず秋人くんの横に座ったら肩におでこをうりうりされる。可愛いなあと思って見ていれば、あ、こいつついでに涙を拭いていやがる。慌ててきれいなおしぼりを探してたら愛空くんが近くにあったのを渡してくれたから、やっぱり気がきくなあと感動する。こういうのがモテる秘訣だよ秋人くん、人の服で顔拭いてないで。なんとかお顔を拭いてあげたらへにゃへにゃの笑顔でつめたくてきもち〜と笑うから全部許してあげた。可愛い。

「ナマエなんでいんの」
「愛空くんからヘルプコールかかってきたから」

素直に答えたら、にこにこしていた秋人くんは急にむすっとした顔になってしまった。おお、気分の変わり方がすごい。これは荒れてる。

「なん、なんでお前がナマエの連絡先しってんだよぉ!」
「お前が毎度潰れるからだろーが」
「ナマエ!うわきか!?」
「してないよ」

拗ねてるんだか妬いてるんだかで顔が髪とおんなじ色に上気している。まだなんかうにゃうにゃ言ってるけどとりあえずお冷を渡しておいた。呂律が回ってないですよお兄さん。

「じゃあ俺帰るけど大丈夫そ?車乗せようか?」
「ううん、すぐ近くに停めてるから大丈夫だよ。ありがとね」

お会計しとくから酔っ払いの相手頑張って、と笑って去っていった愛空くんは全然酔ってなさそうだった。愛空くんが強いのか秋人くんが弱いのか、多分どっちもなんだろうな。
ぶすっとした顔でわたしの腕にしがみついてる秋人くんは今度お金払うこと覚えてるだろうか。一応秋人くんのメッセージにメモ代わりに送っとこう、とスマホを出したら「よそ見すんなよ」と腕に力を込められる。痛い。腕とれる。痛いから離して、と言ったらスマホを取られて秋人くんのポケットにしまわれた。ううん、まあ手は離れたからよしとしよう。

「おれより先にあいつが電話しちゃったじゃん」
「秋人くんわたしに電話しようとしてたの?」
「かえりみちに話してえなって。まじでなんて言われたの」
「秋人くんがさみしくて泣いてるって聞いた」
「ないてねえし」

ぐすぐす鼻を鳴らして、目も真っ赤なのを隠すみたいに顔を背けるのがだいぶ無理あって笑ってしまう。全然説得力ないな。なんでさみしくなっちゃったの?と聞いたら口角と眉毛が下がってしゅんとした顔でさみしくねえ、と呟く。全部顔に出てるよ。

「だって、最近全然会えねえし、こっちも忙しくて連絡とかできてなかったし、そしたら愛空が、そんなんじゃ飽きられるぞとかいう、から、」
別れたくねえよぉとまたぺそぺそ泣き始める秋人くんの頭を撫でる。可愛いけどなんだかすごく話が飛躍している。ばかだなあ、私が秋人くんのこと捨てるわけないのに。

「秋人くんが捨てない限り私から別れるなんて言うわけないじゃん」
「すてるわけねえじゃん!?どんだけ頑張ってナマエのことつかまえたと思ってんの!?」
「んふふ、がんばってたねえ。でもなあ、わたし女優さんみたいに綺麗でもスタイル良くもないしなあ。本命にするには物足りないかも」
「俺はっ!ナマエ、しか!いらねえの!ナマエとっ結婚したいの!ナマエがいいのっ!」

ひぐひぐ嗚咽混じりで全部がんばって伝えてくる秋人くんにぎょっとしながらとりあえずもう一回おしぼりを渡す。うええ、とわたしの服を握りしめて子供みたいに泣いてる秋人くんに、ちょっと意地悪しちゃったかもしれないな、と思いながらも胸の内がものすごく満たされていくのを感じる。ふうん、私しかいらないんだ。そっか。そんなまっすぐ言ってくれるんだ。それなら私だってちゃんと返してあげなきゃ。この可愛いひとと一生一緒に居たいから、この先君に何があっても守ってあげると誓おう。こんな居酒屋で言うことになるとは思ってなかったけど、まあタイミングだったってことで。

「よしよし、わたしが秋人くんのこと幸せにしてあげるからね」

まるっこい頭を撫でながら言ったら、「や、だあ、おれがナマエを幸せにすんの!」って赤くなった目にまたぶわ、って涙が浮かんで、困った。また泣かせちゃった。泣かないでよう、と頭に手を置きっぱなしで困ってたらうううって唸りながら頭を揺らして勝手に撫でられてて笑っちゃった。セルフ撫ででいいのか。別にいくらでも撫でてあげるけど場所が場所だ。

ほら、帰ろう?と促したら服の裾を握りしめたままわりとすんなり立ち上がってくれてほっとする。はやく帰ろう。このままかっこつかない2人が週刊誌にすっぱ抜かれても困っちゃうし。明日の朝、私のベッドで起きた秋人くんに「もう一回、今度は酔ってないときにプロポーズするからね」って伝えてあげなきゃいけないからね。