サロウ兄妹たちと青春を取り戻す*


 

アンの快気祝いと、ずっと色々心配してたオミニスに謝罪と感謝の意を込めて、僕と転入生の奢りってことで4人で三本の箒で乾杯した。少し前の当たり前の風景が帰ってきたことと、そこに転入生が馴染んでいること。どちらも本当に嬉しいと思うし、僕が道を外れないようにみんな必死になっていたことを思い出して少し恥ずかしくもある。こうやって反省できるのも、全てが解決した今だからだとは思うけど。あの最中は何がどうなって最悪に転がってもおかしくなかったし、僕はずっとぎりぎりのところでなんとか踏みとどまれたに過ぎない。おじさんとの決裂は決定的になったけれど、あの場で落ち着いていられる奴なんか居ないとそれでも僕は信じている。

「お義兄様に何かあったらアンが何より悲しむだろ、絶対に1人で行かせないぞ。オミニスとも彼女とも約束したんだ、君から目を離さないって」
「待て、君、僕の知らない間にアンと会ってるのか?それにお義兄様とかいう気味の悪い呼び方は何の冗談だ?」
「普段は文通だが彼女の調子がいい時は少しの間会ったりもするさ。ああ安心してほしい、彼女の負担になるようなことは何一つしてない。誓ったっていいよ。お義兄様はまあ、そういうことだけど」

その後絶対に譲れない男同士の決闘が始まったことは言うまでもないけれど、それでも僕とアンのことを心から心配していてくれたことには感謝している。拗れていたオミニスとの仲も知らないところで取り持っていたりしていたらしいし。

でもこの転入生、サロウ家に婿入りする!と所構わず吹聴しているようで、アンのことを知らない下級生からなんとも言えない目で見られることがたまにある。流石に勘弁してほしいし、訂正もしてほしいがそもそも僕はアンとのお付き合いを許しますとは言ってない。ダメという気もないけど、こればっかりはアンの選ぶことだ。
でも、最近はアンが復学するにあたって遅れている勉強を、学んだばかりで記憶の新しい転入生が付きっきりで教えているようで。まあ、あまり心配は要らないかもしれない。僕は僕でここ最近までお世辞にも勉強に身が入っているとは言えない状態だったから、今後転入生に勉強を教えてもらうハメになるかもしれない。いくらなんでも屈辱的すぎる。

「そうそう、とりあえず何か手がかりが見つかるかもしれないって2人で手当たり次第信奉者のところに殴り込んでたらトロールまでいてびっくりしちゃった。あれはわりと手こずったなあ」
「ねえ、それ本当なわけ?貴方たちそんなことまでしてたの?」
「ちょっと待ってくれ、それは聞いてないぞ。いつもそうだ、2人ともそうやって軽はずみに碌でもないことをしでかす!俺はずっと止めてたし、今度こんなことがあったら本当に知らないからな!」
「えへへ、ごめんって」
「その"今度"がないことを僕も心から祈ってるよ。でもオミニス、君ってば実は僕に甘いからなあ。……いや、悪かった、だからその正気か?みたいな顔やめてくれ」
「セバスチャン・サロウ、本気で聞いてるのか?それともこの酒場全員のバタービールを奢りたい気持ちにでもなったのか?それなら俺が代わりに今日はこいつの奢りだ!って宣言してやるぞ」
「勘弁してくれ!流石にそこまでの手持ちはないよ、本当に反省してる!」
「本当に反省してるなら、そろそろ俺のバタービールのおかわりが出てくる頃合いじゃないか?」
「はは、それはそうだ。すぐ注文しよう!」


「ねえ、お義兄さんたちは勝手に楽しそうだし、僕ら2人で抜け出さない?いいところを知ってるんだ。少し離れてるけど、空が近くて、星が綺麗で、素敵な場所なんだ。箒は僕の後ろに乗ればいい。しっかり捕まっていてね」
「ふうん、この辺りで私の知らない所があるとでも?でもいいね、外を飛び回るのなんか久しぶり。問題は残りの2人がこっちの話を全部聞いてるってことだけど」
「俺たちを置き去りにするとはいい度胸じゃないか、転入生?」
「まったく油断も隙もないな!いいか、僕の目が届くうちは絶対にいい雰囲気になんかさせないぞ。それにアンが風邪でも引いたらどうしてくれるんだ」
「そりゃ僕のマフラーを貸すつもりだとも」
「わざわざ君に貸してもらわなくてもこういう時は家族が貸すから構わないよ」
「ちょっと!2人がかりでマフラーをぐるぐる巻きにしなくてもいいわ!埋まっちゃう!ねえ、ちょっと、オミニス!無言でマフラーを足さないでったら!」


その後、ちょっと僕と転入生の懐が寂しくなってから店の外に出ると、僕たちのマフラーでもこもこのアンが転入生の箒片手に「素敵な場所に連れて行ってくれるんでしょう?ほら案内人さん、早く乗せて!2人ももたもたしてると振り切られるわよ、私はそれでもいいけど!」って昔みたいに悪戯っぽく笑うから。
さっとアンを抱き上げて満面の笑みの転入生と、それでいい訳がない僕とオミニスが同時にホグズミードの外へ向かって走り出した。道ゆく人が迷惑そうに振り返るけど知ったことじゃない、だって僕たちはこれからいろいろなものを取り返していかなきゃいけないんだ、そうだろ?

Music by 銀河の果てまで連れてって!/フレデリック