「何事なの?これは」


魔界が廊下にまで侵食を始めていた。同棲している彼の部屋の扉から雑多なガラクタが土石流のように溢れ出している。かわいそうに掃除をしていたルンバがこの災害に巻き込まれたらしく、雪崩に乗り上げて転覆したルンバのきゅるきゅると空回りする音が聞こえていた。助けを求めています!という通知に様子を見に行ったらこれだ。


部屋を覗くと部屋の主人も山に埋もれて脱出に四苦八苦していた。こっちにも助けが必要かもしれないんだけど流石に文句のひとつも言わせて欲しいところだ。なにせこの魔界を創り出した張本人である。この惨状も自業自得と言わざるを得ないし。


「もう、扉開けとかないでよ。ルンバがかわいそうじゃない」
「いやあ、外に出ようと思ったら近くの棚が崩れてね……。おや?そこに引っかかっていたのか。気付かなかった」
「いい加減ガレージか何かが欲しいところね……」


部屋にはありとあらゆる工具やビスが転がっていて足の踏み場もない。彼専用の部屋とはいえ、普通のマンションの一室でここまで工具を広げられても困る。家でも買うのかい?それなら設計は任せてもらいたいな!とうきうき語り出す彼の要望の量を聞くに、確かに自分で建てたほうが早そうだった。ただし、彼の設計だと安全性がまったく保証されないのをどうしたものかと思う。


それより今はルンバを触りながら「そうだな、ジャイロを載せて収納可能な脚を作ればこういう段差が乗り越えられるようになるかもしれないな……」となにか妙なことを思いついてしまった彼氏を止めなければならない。今すぐに。


「伯寧聞いて。あたしはルンバに悪路を走行させたいわけじゃなくて掃除をさせたいの。おわかり?」
「うーん、でもルンバに脚が生えていたら面白いとは思わないかい?」
「……かわいいとは、おもうけど」
「よし!早速取り掛かろう!」


こうやってなんだかんだ許してしまうからよくないんだろうなと思いながらも、きらきらした目で設計図を作り始めた伯寧を見るとかわいいなと思ってしまう。惚れたが負けってこういうことじゃなくない?
自分自身に呆れながらも彼の頭に乗っている埃を払うと、きょとんとした挙句心から嬉しそうに微笑むんだから手に負えない。「もっと撫でてくれてもいいんだよ」とにこにこ頭を寄せてくる大型犬を裏切れるわけもなく、手が疲れるまで彼のルンバ改造計画を聞くことになった。