淡白なひとなのだと思っていた。見た目通りの、氷のような方なのだと。


「強く、なにより美しき妻よ!それでこそ頂点に立つ者の隣に相応しい!」


まるでそんなことはなかったな、と熱に浮かされたように賛美を重ねる姿に苦笑する。そうだ、好物を語るときにもこの人は至極熱烈に愛を語るのだった。
ここは戦場。敵の血と土埃にまみれたわたしが美しいはずもないのに、委細構わぬと言わんばかりに彼は目を蕩かせて称賛を贈る。それなりに長い間連れ添ってきたはずなのに、わたしを見る目は初めて告白された時と変わりがない。それは私にとって、喜ばしいことではあるけれど。


「旦那さま、集中なさって。戦場で妻ばかり見ていて怪我をするなど、笑い話にもなりませんわ」


柔らかく苦言を呈すると、珍しくばつの悪そうに口を歪めた彼は、「時に、お前は母上に似てきたな」と口籠る。その顔があまりにもお義父様に似ているものだから、思わず笑ってしまったのは仕方がないことだと思う。
戦場に似つかわしい、気の抜けた一瞬もつかの間。息せき切った伝令が戦況を報告すると、彼は常の冷然たる表情に戻り、威厳ある声で総軍に告げた。



「門は開かれた。速やかに敵を蹂躙せよ!」



その怜悧な顔が、苛烈な意志を湛えた瞳が、凛とした姿が視界に入るたび、わたしは眩しさに目を細める。すべてを持ち合わせたひと。それがこの手の届く場所にいることが、未だに信じられないような気持ちになる。

これからも側で支えてほしいと、折に触れて彼は言う。妻として当然。言われるまでもないのだけれど、それを聞くたびに嬉しくなるのだ。その言葉は、さして取り柄のないわたしが、凡愚を嫌うこの人と共に在ることへの赦しだからだ。


なぜ彼がわたしを見初めたのかはわからない。彼の言う天命が何なのか、未だわたしにはわからない。それでもただの人間に過ぎないわたしをあなたが天命と呼ぶのなら、わたしはそれに応えよう。わたしのすべてを捧げてあげる。すべてはあなたの望みどおりに。わたしの望みはただひとつ、あなたをこの世で一番幸福な男にすることなのだから。わたしは駆ける。目指すは敵の総本山。天への最後の足掛かりは、わたしがあなたに捧げよう。


初めからすべてわかっていたことだ。彼に欠けるは天命のみ。それを手に入れた今、彼は頂点への階を一足飛ばしに駆け上ってゆく。領土も皇位もすでに掌中、残るは愚かにも抗い続ける勢力を完膚なきまでに打ちのめすだけ。
蠢く戦場、うねる怒号の只中で、大将と呼ばれる男の首に刃を添えて、わたしは静かに宣告する。あなたの焦がれた頂点は、すでにその足元にあることを。


「旦那さま、勝鬨を」


天命は今、あなたに傅く。