目の前に降ってきた綺羅星のような女だった。


戦場に迷い込んでしまったとしか思えない華奢な女が目に入った瞬間、目の前の兵たちが一薙ぎに地に伏せ、共に伏せられていた女の顔が花開くようにこちらに向いた。花も手折れないような細腕でありながらもその女は確りと矛を握り、静かに徐庶の前に相対している。目が離せなかった。まばたきをするたびに真夏の夜空のような彼女の瞳に星が煌めく。そこには敵意も殺意もなく、ただ眼を灼くような光だけが徐庶を見据えていた。


一瞬、されど永遠のように思えた邂逅の後、女は救援要請の声に応えるように踵を返して去っていった。暫く呆然と立ち尽くした徐庶は未だにあの時のことを夢に見る。


またあの目に俺を映してほしい。俺だけを見ていてほしい。俺にはもう貴女しか目に入らないのに。呼吸も忘れるほどに見惚れた、俺の前に降ってきた綺羅星。俺の人生に足りないのはあの人だったのだと、鳴り落ちる雷のように本能が叫ぶ。


青い戦闘服を着た彼女は敵軍で、決して相容れないと頭でわかってはいてもそんなことはどうでもよかった。戦場でしか会えないから戦を厭うことはやめた。いつもあの瞳を探しているから傷を負うことが増えた。それでも、ひとたび彼女を目にすればすべてが報われるのだ。彼女に自分のすべてを捧げてしまえればどれだけ幸福だろう。徐庶の欠けた部分を浮かび上がらせる光が彼女だった。その欠落はきっと彼女の形をしている。


何度も何度も彼女に抱かれる夢を見る。無力な赤子のように涙を溢す俺の頭をあやすように撫でる手を。情けなく溢れる涙を掬い口付けを落とす唇を。彼女の表情は逆光で見えない。彼女の動く唇からその声が聞こえることはない。愛されたいと希うその実、彼女の声も聞いたことがないのだから。それでも、この空白は彼女の手でしか埋められない。他の誰にも埋められたくはない。どんな幸福も彼女じゃないと意味がない。彼女から齎されるなら、それがどんな運命でも喜んで受け入れるのに。徐庶は今日も1人、失意の朝を迎える。もうじき、曹操より遣わされた彼女が致命的な運命を運んでくることも知らずに。


※Music by ファタール/GEMN