赤司がヴァンパイア※


ヴァンパイア。それはドラマや映画、つまりフィクションの世界でのみ存在する生き物。少し前まで私もそう思っていた。

「…遅い。お前ごときを何分待ったと思っている」
「そんなこと言ったって私にだって付き合いってもんが…」
「黙れ。僕の言うことは絶対だといつも教えているだろう」
「ぁっ…」

赤司に無理矢理手を取られると指を噛まれて血を吸われる。そう、こいつはフィクションの世界にしか存在しないはずの吸血鬼なのだ。数ヶ月前に私のクラスに転校生としてやってきた赤司。背は低めだが顔良し頭良し性格良しの完璧すぎる彼にクラスはもちろん学校中の女子が虜になった。今では当たり前のようにみんなが「赤司様」と呼び崇拝していてこいつが通るたびに目を輝かせるもんだから私はとても不愉快である。本当はすっごい上から目線野郎で意地悪なのになんでみんな気づかないの!?

まあ、確かにこの白くて綺麗な手で私の手を取り目を伏せながら血を吸う姿は美しいなと毎回見惚れてしまいそうになるんだけれども…。しかも一応見た目は育ち盛りの男子高校生なのに昼飯がコレだけとかちょっと可愛くて笑える。馬鹿にしたら本気で殺されそうだから堪えるけどさ。

赤司が来てから町では不可解な事件が急激に増えた。全身の血を抜かれて死んでいる死体が連日次々に見つかり、テレビでは野生の動物の仕業やら通り魔やら様々な憶測が飛び交っていた。物騒な世の中だなぁ…とどこか他人事のように思い生活していたある日の昼休み。毎日が退屈すぎて漫画みたいなことしたくなって立入禁止の屋上に忍び込んでみた…のが間違いだった。まさかそんなあほみたいな行動が原因で殺人現場に遭遇してしまうなんて。

屋上からの景色ってどんなんだろう、扉を開けた瞬間目に映ったのは青い空に白い雲…ではなく真っ赤に染まる大量の血とそれを吸っている途中の赤司。私に気づき殺意のこもった眼差しを向ける赤司は普段教室で見せるイケメン優等生の赤司君ではなく、連続殺人鬼の赤司征十郎だった。

生まれて初めて足の力が抜けて尻餅をつく経験をした。とりあえず逃げなきゃ殺されるっ…と必至にドアに手を伸ばすも数メートル先にいたはずの赤司が私の背後に瞬間移動して阻止したため私の願いはそこで絶たれた。こ、こええええバケモノ!!!!

「お前、同じクラスだったな」
「…は、はひ…」

やばい怖すぎて口も思うように動かない…。クラスの女子が「赤司君のオッドアイってすごく綺麗だよね!」とか騒いでたけど彼のギロリとした目はマジでこわい。

「…はぁ、僕としたことが。まあいい、バレてしまったものは仕方ない」

そう言ってにやりと不敵な笑みを浮かべると私の頬に手を添える赤司に心臓が飛び出そうになる。もちろんときめいているのではなく恐怖心で心臓がバクバクしているのは言うまでもない。

「あ、ああああのっ!!」
「なんだ…」

返事をしながらも私の首筋にキバを突き立てる赤司に必死の抵抗を見せた。

「こ、こんなハイペースで人殺してたらその内食糧なくなるよ?私の血でよかったら毎日少しずつあげる…だから殺さないで…」

首筋にあった顔を離すと赤司は私の顔をジロリと見た。

「人間のくせに僕に意見するなんて生意気だね。…だが、食糧がなくなるのは困る。それに若い娘の血は一番美味いからな…いいだろう、のった」

それから赤司は、自分がヴァンパイアであること、ヴァンパイアは瞬間移動の他に聴力にも長けていて数メートル先の人の声まで聞こえること、力も半端ないので人の首をへし折ったり心臓を抜き取ることも造作ないこと、また視線を合わせているものに暗示をかけて意のままに操れることも出来るのだとドヤ顔で説明してきた。まあ要は、誰かにチクったり赤司に都合の悪いことをしでかしたら私をその瞬間殺すということらしい。…怖ろしい、幸い人の心を読む能力とかはないっぽいから少し安心したけど。

まあ、そんなこんなで私の「赤司の餌」生活は始まったのであった。毎日昼休みはこの理科室で落ち合い、こうしてお昼ご飯(私の血)を与えている。本当は首筋にガブッといきたいらしいのだが、さすがに目立つしそんなんを毎日してたら私が貧血少女になってしまうので、指から吸わせている。最初は凶悪吸血鬼だった赤司もこの節制生活のおかげかだんだん人間ぽくなってきた気がする。ちなみに夜は病院から輸血用の血液パックを盗んで家にストックしたのを飲んでいるらしい。どんな生活なのか少しだけ気になる。

・・・

「ぅぎゃっ…!!」

ある日、体育で100メートル走の記録をとっていたとき。帰宅部の私は久方ぶりの全力ダッシュに足がもつれて思い切り転んでしまった。いってぇえええ…。コケた私にみんな笑いながら大丈夫かよーと近寄ってくる。コケただけだと思うかもしんないけど思いがけない衝撃やばいから!何なら腹からいったから胸もめっちゃ痛いし!一瞬心の臓止まったからね!?

とか心の中で思いながらも「大丈夫っすー…」と笑顔を向ければいつのまにか赤司が目の前に立っていて今度こそ心停止するかと思った。

「保健室に連れていってやる」
「へ?」
「…膝から血が出ている、手当てが必要だろう?」
「あ、ほんとだ…ってちょ、何でお姫様抱っこ!?」
「足を怪我している女の子が歩いてるのを黙って見てはいられないからね」

その言葉に周りの女子からきゃぁあぁあと悲鳴にも似た歓声があがった。それに乗じて「礼はたっぷりいただくが…な」と呟かれたのを聞かなかったことには、出来そうにない。

体育教師が「赤司、ここはオレが何とかするからお前は男子のサッカーに戻れ」と言うと「いや、でも僕保健委員なので」とサラリと答える赤司。「ん?お前確か、クラス委員長じゃ…」「僕、保健委員です」としれっと嘘を突き通し鋭い目つきで先生を納得させた。今、絶対暗示で無理矢理納得させたな…。

基本的に自分の意思を突き通さなければ気が済まない赤司様に何を言っても無駄なので黙って姫抱きされていると玄関に降ろされた。「あれ、保健室まで連れてってくれるんじゃないの?」と聞くと「必要ない」と一言。

頭にはてなマークを浮かべている私をよそに赤司は自分の手首をガリッと噛んで血をぼたぼた垂らしながら「飲め」と腕をこちらに差し出す。

うぇええ!?無理!人の血を飲むとか無理だよ!そりゃあんたにしたらご馳走かもしんないけど私はふつーの人間なの!!

「あ、赤司…?気持ちは嬉しいけど、あの、その…」
「いいから早く飲め!」
「ぶふっ」

血だらけの手首を無理矢理口に当てられ思わずゴクリと少し飲んでしまった。うぅ…まっずい。

「…よし」

んん?満足そうな赤司の視線をたどって擦りむいた膝を見ると、あったはずの傷も流れていた血も綺麗になくなっていた。え?と思い反対側の膝も見るがもちろん何ともなっていなくて、気づけば痛みも消えていた。

「ヴァンパイアの血は怪我を治せるんだ」

またドヤ顔ですか。まあでも驚いた、なんか魔法みたい。いつも血を与えている側なのに、今回は赤司の血で助けてもらっちゃった。

「ちなみに人間がヴァンパイアの血を体内に残した状態で死ぬとヴァンパイアになる」
「…ほう」

もうヴァンパイアトリビアはいいよ。ルール多すぎて覚えらんないし、ヴァンパイアになる気なんて1ミリもないし。まあでも、今回は素直に感謝だな。お礼、言っとくか。

「赤司、ありがとね。いいとこあるじゃん」
「そんなんでもお前は一応女なんだ。もっと身体を大事にしろ」

そんなんでもってなに。聞き捨てならないんだが。あと身体をなんちゃらとかお前にだけは言われたくない。

「ふっ、なんだその顔は」

心の中で不満を漏らしていると当の赤司は鼻と口の周りに血がついた私の顔を見て笑う。いや、だからお前にだけは言われたくない。

・・・

最近なにやら私と赤司が付き合っているとかいう噂が広まっているらしい。まあ最近よく一緒にいるし体育の一件もあるし…極め付けにこの間赤司が得意のマインドコントロールで担任に席替えをさせ、わざわざ交換をお願いしてまで私の隣の席についたのが原因だと私はみているのだけれど。こいつの本性を知らない校内中の女子はみんな赤司が大好きなんだからやめてほしい。全女子生徒からの嫉妬と隣にヴァンパイアがいるっていう恐怖で私のメンタルどうにかなりそうなんですが。

赤司に振り回されすぎていらいらしていた私は昼休み、最近血を吸われすぎて指が痛いと嘘をつきわざと少量しかあげなかった。内心「ざまあ」とにやついていると「じゃあ指はやめておこうか」と赤司が制服をめくりあげてきたので思わず本気で殴ってしまった。あのときの赤司の顔…夢に出てきそうなくらいおそろしかったな…。

午後の授業が始まりしばらくすると、きゅるるるる…と隣からお腹が鳴る音が聞こえてきた。え、赤司?ヴァンパイアでもお腹鳴ったりするんだぁ。あ、そーいえばお昼あの後結局血あげなかったもんなぁ。ちょっと可哀想なことしちゃったかも。そう思い赤司をチラ見すると赤司がじーっと私を見つめていた。おかげで「苗字ーまだ昼終わったばっかだぞー」とクラスのみんなに笑われてしまった。ぬ、濡れ衣!!私じゃないのにぃ!!…そうですよね、赤司様が腹を鳴らすなんてこと、あるわけありませんよね。赤司を睨みつければ口角をあげて「どうした?」と涼しげな笑み。前言撤回。全然可哀想じゃないこいつ。

・・・

「そういえば前に助けてやった分の礼をまだ貰っていなかったな」

突然思い出したかのようにそんなことを言い出す赤司。げ…。すっかり忘れてやがる、しめしめ…とか思ってたのに何で今急に思い出した!?

…と思ったのが数時間前。そして赤司の家…というか屋敷といったほうがしっくりくるようなバカデカい洋館みたいなところに連れてこられた、なう。

「安心しろ、ヴァンパイアは僕だけだ。使用人は暗示で働かせている」
「そう…」

赤司に慣れてきたとはいえこの人数のヴァンパイアに囲まれたとあってはさすがの私もこわすぎる。赤司の部屋に通されるとこれまためちゃ広い室内に2人きりになる。

「脱げ」
「ちょ、赤司…!」

部屋に入るなりせっかちな赤司はキングサイズのベッドに私をあげると制服に手をかける。最近空腹感や渇きがはんぱないらしく、体育のとき助けた礼に思いきり血を吸わせて欲しいと頼まれ(吸わせろと命令され)今に至るんだけど、年頃の男女がベッドの上ってなんか緊張する。なんか…なんか急に恥ずかしくなってきた!

「早くしろ。こっちはご馳走を目の前に何時間もお預けをくらっていたのだからな、そろそろ限界だ」

ギラつく赤司の瞳に促されるようにブレザーを脱ぎ、ネクタイを解いてワイシャツのボタンをいくつか外すと赤司が私の両肩を掴んで首筋に噛み付いた。

「うっ」

痛い…指ならともかくこんながっつりいかれるとさすがに痛い。でも不思議…その痛みもだんだん薄れてきて、変な感覚に陥ってくる。なんてゆーか…気持ちいいってゆーか…えっちな気分。ほんと赤司に人の心を読み取る力がなくてよかったと思う。だってこんなの知られたら、恥ずかしすぎる…。

赤司は血を吸いながら片手でネクタイを緩めると私を抱きしめ押し倒してきた。余裕のない表情で、息も少しあがってる。

「あか、し…?」
「いくら吸っても足りない…お前の血ばかり吸いすぎて身体がおかしくなったのかもな」
「どーゆー意味よ」
「…血だけではなく、お前が欲しいと言ったらどうする?」

赤司の微笑みにドキッとする。え…赤司ってこんなにかっこよかったっけ。じゃなくて急に何言っちゃってんの赤司のやつ。やだ、何で全身こんな熱くなってんだろ。私まで、赤司といすぎておかしくなったのかな…。

頭がぼーっとして理性がきかない。気づけば私は両手で赤司の顔を引き寄せて唇を重ねていた。赤司は唇を割り舌を絡めると器用に残りのボタンも外していき、あっというまに私の身包みを全て剥ぎ取った。恥ずかしくて思わず布団に包まると裸になった赤司がすぐにやってきて布団の中で抱きしめられる。火照った私の身体に少し冷んやりとした赤司の身体が気持ちいい。ドキドキと混乱でおかしくなりそうな反面、赤司にこうされるのが嫌じゃないと思う自分がいる。

「ヴァンパイアって…体温あがったりしないの?」
「なぜそんなことを聞く…?」
「赤司の身体、冷たくて気持ちいいけど…私だけドキドキしてるみたいで、ちょっと寂しい…」

ちらりと赤司の顔を覗けば目が合った赤司がふっ…と微笑む。いつもの皮肉めいた笑顔じゃなくて、優しい、まるで大切な人に向けるような笑顔。あれ…なんか私、今一瞬好きだって思っちゃった…。

「そんな可愛いことも言えるんだな」
「ちょっと、茶化さないで…」

恥ずかしくなって頭を引っ叩いてやろうと振りかざした腕は赤司によって再びベッドに縫い付けられ、言葉は赤司の唇によって塞がれた。

「ん…ふっ…」

赤司の熱いキスに夢中になっていると全身を撫でるように触られて、すでに濡れてしまっているソコに赤司の硬くなったのが当てがわれ押し進められる。

「んん…っ」

鈍痛に顔を歪めれば、赤司がキスに集中してろとでも言うように更に深く口付けてきて、まんまとその策略にハマる。だってこんなえろい赤司、見たことない…。

私を抱きしめる赤司の腕に力がこもるとナカに全ておさまった。唇を離した赤司の唇と私の唇を糸が繋いで思わず顔が火照る。

「これでも僕の気持ちはまだ伝わらない?」
「だって、私の勘違いだったら、いやだし…」
「はぁ…本当に頭の悪いやつだな。僕は好きでもない女相手にこんな風にはならない」

赤司が私の手を取り自分の左胸に当てる。赤司の心臓はめちゃめちゃ早く脈打ってて、私といい勝負ってくらいドキドキしてた。

「馬鹿でもわかるように言ってやろう。名前、君が好きだ…」

赤司は心臓に当てた私の手を握りキスを落とすと腰を動かし律動を始める。

「ぁ……んん…赤司っ…」

赤司が奥まで突き上げるたびにいやらしい声が出て、赤司の余裕のない表情が目に入るたびにナカがきゅうっと締まった。なんか、赤司が愛おしくてたまらない。いつから私、赤司のこと意識してたんだろう…。

窒息しそうなくらいのキスをされたり胸を赤司の綺麗な手でいやらしく揉まれたり、揺さぶられて赤司のなすがままな私はひたすら赤司に感じて喘いだ。

「んっ…ゃあ…あっあっ…赤司、だめ、イっちゃう…あぁあっ」
「……っ」

強く抱きしめ合い共に果てた私たち。赤司の熱い液体は奥で出されて私の中は赤司で満たされた。

貧血と疲労でパタリと眠ってしまった私の耳に最後に聞こえたのは「ごちそうさま」という赤司の優しい声だった。