09.私の好きな人


「お願い!今日1日さつきの家に泊めて…!」
「いいけどぉ、テツくんもいるよ?」

正直黒子くんにはどっか行っててほしいところなんだけどそんなことも言えないし…もうこの際仕方ない。

「うん、大丈夫」
「どうしたの?何かあった?」
「ちょっと色々ありすぎて…とりあえずさつきの家で話すね」
「え〜気になる〜」
「ほら、いいからとりあえず席着いて仕事しよ!ね!」
「はーい」

さつきと別れて自分の席に着くと、後ろから「はよ…」と大輝が通りすがりにあくびをしながら私の頭に一瞬ポンと手を置く。

「………!」

気を抜いていたタイミングでの大輝の登場に一気に顔が熱くなる。つい数時間前にえっちしたことを思い出して恥ずかしさから思わず顔を逸らしてしまった。だってこんなの、心臓持たない…。

「ふ…どうした苗字、顔が赤いぞ。青峰の風邪でも貰ったか?」
「んなっ…なななに言ってんのそんな訳ないでしょ真ちゃんのえっち!」
「えっ…なっ…!朝からデカい声で変なことを言うんじゃないっ!」
「先に変なこと言ってきたの真ちゃんでしょ!」
「ふんっ、まったくお前というやつは…」

私と真ちゃんが喧嘩している中、向こうでは大輝とさつき達が和気あいあいと話している。

「あ、大ちゃん風邪治ったんだ〜?今日も来なかったらお見舞いに行こうと思ってたのに〜」
「お前が来たら余計悪化するっつんだよ」
「ひど〜い!テツくんも何か言ってやってよお」
「青峰くん、言い過ぎです」
「テツお前…裏切ったな…」

大輝が復帰していつもの光景にふふ、と笑みを溢しているとパソコンにメールが届く。

「昨日どこ行ってたの」

…紫原くんだ。朝はなんとか撒けたと思ったのに…なんて言い訳しよう。

とりあえず実家に帰ってて連絡し忘れたって言おう…嘘つくのすごい罪悪感だけど。今日さつきの家に泊まることと合わせてメールで伝えると、しばらくしてから「わかった」とだけ返事がきた。

あれ、もっと色々文句言われるかと思ったのに意外とすんなり受け入れられた…。逆にちょっと怖い。

チラッと紫原くんのほうを見るも紫原くんはこちらを見ることもなく静かにパソコンを打っている。うーん…まぁいっか。


お昼休み。ただの幼馴染ではなくなった大輝とどう接していいかわからず、気恥ずかしさから逃げるようにさつきに声をかけに行く。

「さつき、一緒にどっかランチ行かない?」
「ごめん、テツくんと約束しちゃった。てか、大ちゃんは?」
「え!?あー…えっとぉ…」
「おい、何してんだ。行くぞ」
「ぎゃっ!」

さつきとどこかへ逃げるより先に大輝に見つかり首根っこを掴まれていつもの屋上へ強制連行される。そんな私達を見て「いってらっしゃ〜い」と
笑顔で手を振るさつき。ああ、早く話を聞いてもらいたい…!


「お前、あからさまにオレのこと避けてんじゃねーよ」
「だって…」
「…まぁ、オレもこんだけ待ってまさかあんな形でお前に気持ち伝えるとは思ってなかったけど」

やっぱり、本当に昔から私のこと好きでいてくれたんだ。私が涼太と付き合った時どういう気持ちだったんだろう…大学で私との仲を噂されてる時も、どう思ってたんだろう…一緒にいる時間が長かっただけに申し訳なさとか嬉しい気持ちとか…色んな感情が溢れて混乱する。

「お前の気持ち聞く前に抱いたのは悪かったと思ってる…けど、半端な気持ちじゃねーから」
「うん…今まで気付けなくてごめん。たぶん、知らないうちに大輝のこといっぱい傷つけたよね」
「…別に、オレが勝手に好きになったんだし謝る必要ねぇだろ。つーか身体大丈夫かよ?朝から激しくしちまったけど」
「なっ…!ちょっと一応ここ会社なんだけど!その話今しないでよ…!だ、大輝こそもう平気なの…!?」
「あー…ぶっちゃけまだ本調子じゃねーんだよな」
「え、そうなの?大丈夫…?」
「無理。だから今日も看病しにきて」

そう言って口角を上げて私を見つめてくる大輝。な、なによその意味深な顔…!私の幼馴染はいつからこんなチャラくてエロい男になったんだ…!

「えっ…なっ…む、むり!今日は予定があるから…」
「はぁ?何だよ予定って…まさか黄瀬じゃねーだろうな」
「違うって…」

とは言ったものの、昨日の今日でさつきの家に泊まるって言ったら大輝のこと相談しようとしてるのバレちゃうし…

「本当かよ…ったく。まあいーわ…腹減ったし飯食う」

不機嫌そうにパンを取り出すと食べ始める大輝。大輝はなんでこんな私なんかをずっと好きでいてくれたんだろう。好意を寄せてくる人の中に可愛い子だってきっといただろうに。

「ん?なんだよじっと見て…お前飯は?」
「え、あー…朝時間なくて。お腹も空いてないし飲み物だけで十分だから」
「しょうがねーな…半分やる」
「いいよ、大輝いつも足りないって言ってるじゃん」
「1人で食ってても味気ねーだろ。ほら」

こうなったら意地でも受け取るまで引かないのが大輝だ。食べ物に関して人に分け与えることなんて絶対しない大輝がくれるとか、帰りに大雨が降らないか心配だな。

「うん…ありがと大輝」

分けてもらったパンを受け取り微笑むと顔を赤く染めて照れる大輝。

かと思えば唐突に「…キスしていい?」とか聞いて距離をつめてくるもんだから「だめ」と拒否すると「あ?なんでだよ」とまたも不機嫌になった。


午後になり、他部署への届け物を済ませてエレベーターに乗ると同じタイミングで外出先から戻った涼太も乗り込んでくる。

「お疲れ様」
「名前っちもお疲れ」
「んっ…ちょっと…」

密室に2人きりというのをいいことに抱きしめてキスをしてくる涼太。いつ開くかわからない会社のエレベーターの中で何考えてんの…!と抵抗するも涼太はぎゅうーっと抱きしめてくる。

「はぁ…癒される。今日のとこ契約取り付けるのに結構苦労したんスよ…だからご褒美にもう少しこのまま…いい?」

いつもは元気な涼太が疲れてる…。なんかこういう姿見るとキュンときちゃうっていうか優しく癒してあげたくなっちゃうというか…ほんと涼太は意識的にも無意識にも女心を掴むのが上手い。

「ずるい…そんなこと言われたらだめって言えなくなるじゃない…」
「うん…名前っちがそういう優しい性格なのオレ知り尽くしてるから…遠慮なくそこにつけ込ませてもらうっスよ」
「ん…ふ……」
「…ん……はぁ…」

私達の部署のフロアに着いても片手で閉ボタンを押しもう片方の手で私を抱きしめ舌を絡めた深いキスをしてくる涼太。

エレベーターの小さな室内に私達の唾液が絡み合う音が響いて余計にドキドキする。

私のほうから唇を離すと閉じていた涼太の瞳と視線が合ってもう一度唇が重ねられた。

「あー……週末まで待ちきれないっス」
「ふふ…ほら、仕事戻るよ?」
「名前っち…」
「ん?」
「好き」
「もう…一応まだ勤務時間なんだからね…?」
「週末は、この気持ち全部ぶつけるから覚悟しといて」
「………っ」

そんなこっちが照れるようなことをサラリと言って私の手を握ると、涼太はエレベーターから降り部屋の前で手を離すと一緒に中へ戻った。

涼太にもちゃんと大輝とのこと話さなきゃ。自分がプロポーズした後に他の男と関係持ったって知ったら、涼太からこんな風に優しくはしてもらえなくなるかもしれないけど。

・・・

「で、急にうちに来るなんてどうしたの?もう私気になっちゃって今日一日全然仕事が手につかなかったんだからね?」
「まあ苗字さんにもタイミングがありますから。…どうぞ」
「あ…ありがとう黒子くん」

仕事が終わりそのままさつきの家に一緒に帰ると前のめりで尋問してくるさつきとそれを諭しながらもこちらを真っ直ぐ見つめてくる黒子くんに挟まれる。

「いや、あの…話しずらいって…!」

黒子くんもいるとは言ってたけどまさかこんな堂々と女子の会話に参加してくるとは思ってなかったんですが。ああ、もうどうにでもなれ…!

「今3人の人に告白されてて、しかも全員と身体の関係持っちゃってて、でもこのままじゃいけないしちゃんと答え出そうって思ってるんだけど自分の気持ちがわからなくて困ってます!」

わかりやすくできるだけ簡潔に言ってはみたものの、2人の反応が怖い。恐る恐る2人の顔を見ると、双子のようにに揃って口に手を当て驚いた表情を見せた後、

「きゃー!何その月9みたいな話!だれだれ、相手は?私の知ってる人?いいな〜名前ばっかりずる〜い」
「その3人というのは、紫原くん黄瀬くん青峰くん…でしょうか」

興奮したさつきのマシンガンと何とも冷静かつ的確に相手を当ててくる黒子くんに戸惑いながらもとりあえず一口お茶を飲んで己を落ち着かせる。

「黒子くん…なんでわかったの?」
「え、てことは大ちゃんついに告白したの!?すごーい!ていうかきーちゃんとむっくんまで!?やばいやばーい!」
「さつき、いったん落ち着いて。で、黒子くん…理由を教えてくれる?」
「僕は昔から人を観察するのが癖みたいになっているのもあって…わりとそういうのに敏感なんです。彼らの視線の先にはいつも苗字さんがいましたから」
「………!」

なんか、第三者から改めてそういう話を聞くとなんか恥ずかしいというか照れる…!それに、困惑してるとはいえ正直嬉しい…。

「確かに、まさかそこまでいってるとは思ってなかったけど3人とも好きが駄々漏れてたもんねぇ」
「え、そうなの!?」
「名前ってほんと鈍感だから、3人に同情するよ」
「鈍感なのにやることやってて正直驚きました」
「黒子くん!?」

前から思ってたけど黒子くんて大人しそうに見えて意外とハッキリ物言うよね…。黒子くんの不意打ち正論パンチにノックアウトされかけていると詳細を掘り下げたくてうずうずしているさつきがあれやこれやと質問を投げかけてくる。

まあ、黒子くんのハッキリ意見を言ってくれるところやさつきのほうから色々聞いてくれるのは正直話しやすくて助かる。自分から恐る恐る全てを話すのはもっと緊張していただろうから。


「なるほどね〜。確かに3人とも魅力的だから同時に来られたら悩んじゃうよね」
「相手がちゃんと決まるまで、避妊はしっかりしてくださいね」

黒子くん…!?下ネタとは無縁の世界にいる人だと思っていたのにそんなことまでハッキリ言うなんて…!でも確かにそこも流れのままに…てとこあるからちゃんとしなきゃって自分でも思ってたし、心配して言ってくれてるんだよねきっと。

「決めるのはもちろん名前だけどぉ、私はやっぱり大ちゃんと名前がくっついてくれたら嬉しいなあ」
「え、そうなの…?」

昔のこととはいえ、さつきも大輝のこと好きだったのにそんな風に思ってくれるんだ…。

「テツくんは知ってるから言うけど、実は私小さい時と高校生の時2回大ちゃんにフラれてるんだ」
「え!?知らなかった…」
「だって2回とも名前を好きだからって理由でフラれたんだよ?言えるわけないじゃない」
「え…あ…ごめん…」

大輝がそんな風に言ってくれていたことも、さつきが私の知らないところで悲しんでいたことも全然知らなかった。私本当に、周りの人間をたくさん傷つけてきたんだ…。

「大ちゃんの気持ちを私が勝手に名前に言うわけにもいかないし、フラれたって言うのもなんか恥ずかしくてさ。でも、おかげでテツくんと付き合えて今は幸せだよ?むしろ大ちゃんフッてくれてありがとうって感じ!」
「僕も青峰くんを応援します。黄瀬くんと紫原くんのことも好きですが、やっぱり青峰くんには特に幸せになってもらいたいですから…元相棒として」
「ふふ…大輝が聞いたら喜びそうだな」
「将来、僕達の子とお2人の子が一緒にバスケをやってくれたら嬉しいなぁ…なんて。さすがに気が早すぎますけど」
「え〜!今テツくんサラッと嬉しいこと言ってくれた…!?もう、僕達の子って…きゃー!!」
「え、あ…えっと、その…!」
「ちょっとそこ2人でイチャつくの禁止!」



もう…なんか逆にこっちが気を遣って泊まるのやめて出てきちゃったよね。2人に話聞いてもらってちょっとスッキリしたけどさ。

帰り際、黒子くんが

「青峰くん、自分勝手なところもありますけど苗字さんのことは誰よりも大切に思っているのが見ていてわかります。ですがそれは黄瀬くんと紫原くんも同じです。なので…焦って決める必要はありませんが、今苗字さんが一番会いたいって思う相手のところに素直にいくのがいいんじゃないでしょうか」

と助言をくれた時、真っ先に浮かんだ顔があった。なんか、今すごく会いたい。

2人のマンションを出た帰り道、私はスマホを取り出しその彼に連絡を入れるのであった。


・・・

※ここから先は乙女ゲームのように紫原、黄瀬、青峰ルート(END)に分かれそれぞれのキャラとのその後のお話を楽しめる仕様となります。(各3話予定)

自分の推しルートのみを楽しむも良し、全員分見届けるも良しなので、それぞれの結末を貴方様自身で選択し楽しんで頂けましたら幸いです。

更新を今しばらくお待ちくださいませ。