一般女性の苦難

 どうにもこの蒸し暑い日に朝から火を使ってご飯を作るということが面倒になり、せっかくの休みということもあって近くのコンビニに入った。
 仕事の休み。ということは誰にも邪魔されず、好きなだけお菓子を食べて、好きなだけ寝転がれる日というわけだ。

 カゴに朝昼兼用のパンやらサンドイッチを適当に放り投げ、午後のおやつ用にスナック菓子やチョコレート類を大量に買って、さてとレジに足を向けた時、幼い声と共に来店を知らせる音楽が店内に鳴り響く。

「わー! 涼しいー!」

 どこかで聞いたことのあるそんな女の子の声に思わず足は止まる。嫌な予感に目線だけをゆっくり入口に向け、その姿を認めると思いきり絶望感から膝から崩れたくなった。

 いや、誤解しないでほしいが、別に声の主たる女の子──── 歩美ちゃんが嫌いなわけでは決してない。問題はその隣にいる子供……コナンくんにある。


 江戸川コナンと風変わりな名前を持つその子はおかしな体質を持っていた。一度あの子と関わりを持ったが最後、この狭くはない米花町であるはずなのに、ストーカーでもされてるんじゃないかと思うレベルで遭遇する。
 そして遭遇したが最後、必ずなにかしら事件に巻き込まれるのが通例だった。ひったくりや万引きなどはまだ良い方で、ほとんどの事件内容は人が人を殺す殺人事件。一時期はお肉が食べられず不本意なベジタリアン生活を強いられたこともあった。

 このままコナンくんたち一行にバレずに、関わらずに、通り過ぎて何事もなく家に帰りたい。そして私の預かり知らぬところで殺人事件でもなんでも呼び込んでくれ。でも私がまだいるこのコンビニでは事件を起こすな。コナンくんが事件の犯人でもないのにそう思ってしまうのも無理ないくらい、あの子と遭遇すると必ず事件が起きる。

 もはや歩く死神だ。子どもなら子どもらしく殺人事件が起こる度に泣いていればまだ可愛げもあるもんだが、この子は殺人事件が起きると目輝かせて自ら首を突っ込んでいく。可愛げの“か”の字もねえ。


 Q. 死体の周りで小学生がうろちょろうろちょろと駆け回り、最後には大人の首(だいたいの被害者は毛利探偵である)に腕時計から飛び出る針を刺して眠らせたかと思えば、体を隠しきれてないまま得意げに変声機で事件を解決するような子どもを好きになれますか?
 A. なれるかってんだよバーロー。

 首に針みたいなの刺して眠らせる小学生おる? 怖すぎん?
 人体に無害っぽいからまだいいものの、見てしまった時はさすがにドン引きした。そして毛利探偵やコナンくんに平気で情報を喋る警察にもドン引きした。
 ヘイ! そこの警官のキミ! 情報漏洩って言葉ご存知? って何度言いそうになったかわからない。

 これだけコナンくんに何とも言えない感情を抱いてある私だが、そりゃ最初はね、いたいけな小学生になに殺人現場見せてんだとか、警察なら全力で止めろよとか、いろいろ思うところもあったけれど、同じく探偵という肩書きを持つ西の高校生探偵がコナンくんを「工藤」呼びしているのをたまたま聞いてしまってからはなにも思わなくなった。

 お前の正体、見破ったりー!!!
 せめて隠す努力くらいしろや。今めっきり姿を見なくなったと話題の工藤新一だろ。道理でコナンくんに戸籍とか出生地とか親のこととかいろいろ聞いたら誤魔化されたわけだよ。人体を縮めさせることができるという事実よりも、こんな不気味な奴が(生粋の)小学一年生という事実の方が信じたくない。
 コナンくんみたいなのが本当の小学生なら将来あまりにも怖すぎじゃん……。何人ひとが死ぬことになるん……。

「あれ、なまえさん?」

 そんな過去に思いを馳せながら、いかにこの小学生カッコワライと会いたくないか力説したところで、この大量に中身の入ったカゴでいつまでも店内をうろつくわけに行かない。心を決めてレジに向かえばまあ案の定目敏い子供たちに気づかれてしまった。

「……こんにちは」
「なまえさん! こんにちは!」

 うん、こんにちはコナンくん。そのわざとらしい子どもを意識したその笑顔、とても不気味だわ。

「……こんにちは、コナンくん。わたし急いで帰らなくちゃいけないから、あまりお話できないけど。お外は暑いから熱中症に気を付けて遊ぶのよ」

 コナンくんとは違って可愛らしい子供たちは声を揃えて元気よく挨拶を返してくれた。かわいい。
 そのタイミングでいつのまにいたのか、私の前に並んでいたらしい男性客は会計を終えたらしく、足早に店内から出て行った。カゴを持ち直した時、足元にいたコナンくんが疑問の声を発した。

「…………」

 なんだろう、とても嫌な予感がする。

「どうしたの? コナンくん」
「千円札でタバコ1個……妙だな」

 なにが?

「……なまえさん、どう思う?」
「普通のことでは?」
「なまえさんがそう言うならあの人、怪しいね」

 張り倒すぞクソガキ