清々しいほどに晴れた朝。その日眠りについていたクルーを起こしたのは窓から差す燦々とした明かりでもなく、サンジが作る香ばしい朝食の香りでもなく、甲板から届いた凄まじい物音だった。
「っ、何!?」
髪を梳かすことすらせず、いの一番に飛び出したナミはサンデッキに広がる光景に一瞬思考が停止した。
「〜〜〜っ、〜〜っ、なみ、なみちゃ……!」
風も穏やかに流れる気候であるはずなのに、彼女──── なまえの上にはどこから飛来したのか、古びた樽やら木材やらがのしかかり、その華奢な体の重しになっている。
幸いなことに中身は全て入っていないため他のクルーなら一瞥、むしろ叩き起したことにビンタの一発でも食らわせてやる所だったが、ゴミの下敷きになっているのがなまえであることは非常に問題だった。
ナミはその白い肌を青に変え、女ひとりでさえ楽々にどかせる重量のそれを放り投げてなまえに手を貸し立たせる。ナミのちょうど胸下ほどしか身長のないなまえの体は新しい切り傷がよく目立っていた。しかも荷物の落下時に足を捻ったらしく、足を庇った立ち方だ。
「なまえ……あんたねぇ、気を付けなさいって言わなかったっけ?」
「うえぇ……っ!? な、ナミちゃん、でもこれ空から降ってきたんだよ……!?」
「死ぬ気で避けなさいよ!!」
「むっ無理だよ……」
しゅんと項垂れる彼女にナミは心の底から重苦しいため息を吐き出した。
なまえの体はそれはもう、──── 非常に弱かった。雪国の天候や長時間の雨に晒されればすぐに風邪を患い高熱を出し、乾燥地帯の熱い気温に晒されれば体調不良を起こし、激しい運動は心臓を痛め、その腕はナミが少しでも力を加えれば容易に折ることができるほど細く、筋肉でできたゾロにでも殴られれば、頭部への重い損傷で簡単に命を奪うことができるほど、なまえの体は異常なほどに弱い。
そんな、ともすれば産まれたての赤子よりも弱いとすら思える彼女が今の今まで生きて来られたのは間違いなくその強運と、軒並み外れた危機察知能力と、そして九割クルーたち(主にサンジくん)の死なせまいとする涙ぐましい努力のおかげである。なお船長たるルフィにおいては野生の勘とも言うべき能力で、数々のなまえに降りかかる危機を知らずに追い払っているため、ここでいう“涙ぐましい努力”のクルーには入らない。
自他ともに“ なまえは弱い”と認め、本人も逃げることだけに全神経を置いて過ごしているはずなのに、こうして目を離せば死にかけているのだからナミは額を抑える他ない。
「しかも何で私より先に行動してるわけ? あんたから目を離したらいつ死んでるか分かんないから、私が起きるまで寝てろって約束でしょ」
「お、お腹すいちゃって……ほんの少しサンジくんに挨拶しようかなって……目も覚めて喉も乾いてたから……そしたら、その……ごめんなさい……」
もう一度謝罪を繰り返す可愛い妹分にナミはこれ以上鋭い声を飛ばすことなどできず、再度深い溜息を吐き出し、この船の医者たるチョッパーを叩き起しに向かったのだった。