今日は誰の番だったか。
と、私はカレンダーに目をやった。そこにはオレンジ色のペンで、Leo!!!と記載されている。……レオが書いたな?

「ああ、道理でヤク決めちゃってると疑われるくらいハイテンションだった訳ね」
「わはははは☆ おれが薬なんてするわけないのに、不思議だなー? 神様が与えてくれたこのインスピレーションを阻害するだけじゃないか!」
「うん、レオは薬とかいらないよね」

常にナチュラルハイだもん。とか言ったら怒られそうだ。
スーツを脱ぎながらそんなことを考えていると、レオもうざったそうにネクタイをほどき始めた。お互い、ラフな格好が好きなので気持ちは分かる。

「レオ、念のため聞くけどさ。ボーナスとお願い事、どっちがいい?」
「お願い事!」
「だよねー」

ニコニコと無邪気な笑顔で手を挙げたレオに、自然とこちらも笑みがこぼれた。

ボーナスと、お願い事。
それが最近『Knights』の間で流行っている、新しい報酬だ。

元から、一週間に一度、五人のうち一人に追加報酬を与えるという習慣があったのだ。最初は一週間のうちのMVPの口座にほにゃらら万円振り込むという作業的なモノでしかなかったが、すぐにこれは廃れてしまった。

一つは、単独任務が多いレオが、どうしてもMVPをとってしまうため、不公平が生じたから。

そしてもう一つは、そのMVPのレオが「これじゃつまらない!」と私に異議申し立てをしに来たからだ。主にこっちが原因で、単なる振り込み作業は廃止になってしまった。

そして、お金の代わりにレオが申し出た提案は、これだ。

「おれ、今度フランス行きたい! から、休暇くれ!」
「おーっと、一番エグイお願い来たなー。まぁいいや、最低でも三日は融通利かせるから」
「やったー! ありがとう名前、愛してるっ!」

この通り。
【私に、何か一つお願い事を叶えてもらう】
が、彼がお金の代わりに要求したものだった。

この報酬制度を他のチームに知られたら、「小学生かな?」と思われそうだ。

実際、泉は猛反発していたし、凛月も「ええ? ボーナス貰えないと困るしねぇ……」と難色を示していた。一方で鳴ちゃんは「楽しそうっ! アタシ、名前ちゃんと行きたいスイーツの店がいっぱいあったの〜!」と賛成。司くんも「私も、お姉さまと一緒にお出かけしたいですっ」と意外とノリ気。三対二で、この【お願い事】という報酬を可決することと相成った。

もちろん、今まで通りの追加報酬も【ボーナス】というもう一つの選択肢として残しているが。ようするに、彼らは【私に無茶ぶりする権利】か【ボーナス】を五週間に一度、得ることが出来るということだ。

「でも、フランスで何するの?」
「ルーブルに行って、ちょっとインスピレーションを刺激しに行きたいなって思ってたんだ」
「ああ、作曲ね。ほんとに熱心だねぇ、レオは」
「まぁな〜♪」

レオは、『Knights』で一番の実力者だ。
本来ならば『Knights』の上司は彼の仕事になるはずだった。けれど、彼は机仕事が壊滅的に出来ない。と、本人も思っているらしく、あろうことか私に上司を任せてきたのだ。

最も、仕事の種類的には、私が一番適任という彼の判断は間違っていないが。私、基本的に立案とナビゲートがお仕事だったしネ。

そしてそんな彼、実は表では作曲家としても名を馳せている。まったく、天は月永レオに何物持たせれば満足するんだ?

「まぁ、分かったよ。今週は月永レオからの【お願い事】を、確かに受け取りました!」

禿げ頭の嫌味な上司に頭を下げる覚悟は十分か! という鬱な仕事はさておき。隊員のモチベーションを上げるのも、また上司の仕事だろう。

今日もこうして、意外にもお子様っぽく――美しく言うならば、遊び心溢れる感じに。最強の怪盗集団・『Knights』は運営されていくのだった。