「あっはははははは☆ インスピレーションが湧き上がるッ!」
「……以上が今回の奪還品です、砂山主任」
「うむ。今回の報酬はレベル5だな」

上司と二人、淡々と業務連絡をこなす。それより数メートル後ろでは、レオが今日も上司の部屋の壁を五線譜で埋め尽くしていた。もはや二人は動じることすらなくなって、させるがままにしている。

「では、ご苦労だった。月永夫妻」
「主任もお疲れ様です。……あと、月永レオの給与から、部屋の清掃代を差し引いて構いませんよ」
「いや結構」

上司は何でもないような顔で、また書類の山に目を通し始めながらこう言った。

「ヤク抜きの治療代にしたまえ」



レオにはヤクを抜くより、血気を抜いてほしい。……と個人的に思うのだ。

ベッドの上で彼と寝転んだだけなのに、いつの間にかセックスをする流れになっていた。半端に脱がされたシャツと、その下でじんわりと熱を持って自分の体を這いずり回る大きな手を見ながらそう思った。

「も、レオ……やめてよ」
「嫌だね」
「だってまだ、お風呂も入ってないし……んぅ」

私の説得が気にくわなかったのか、レオの指先が胸の頂きまで滑りこみ、きゅっとそこを摘まんだ。執拗に捏ねられると、どんどんとそこは固く主張し始めていく。我慢していた声が徐々に止められなくなると、レオは嬉しそうに唇の端を上げる。

「はやく素直になれよなぁ、名前」
「この、バカ……」
「あはは、それともアレか? ヤク中とはセックスできない?」
「してない癖に……っていうか、出来ないって言っても聞かないくせに……」
「わはは! 名前はおれのことよくわかってるな! 愛してるぞ」

愛してるぞ、の所で一気に声が低くなり、唇同士が重なり合った。レオが私に覆いかぶさるような態勢なので、彼の括られた橙色の髪の毛が頬をくすぐった。くすぐったいなぁと思っていたけど、キスが長引くと別の感覚がせりあがってきて、私は息を上げるほかなかった。

唇が離れると、彼の頭は胸の方に移動した。赤い舌がれ、と頂きに這わされ、貪るように蹂躙される。赤子のよう、というには余りにも雄を感じられる目をしていて、腰によくない。

「はぁ……んん、名前」
「ん、くぅっ……」

逆側は乳房全体を包み込むように揉まれていた。やわやわとした触り方の時もあれば、痛いほどの力の時もある。緩急をつけた動きに、あっさり陥落して目を潤ませている私もどうなのだろう。ギラギラ光る緑色の瞳が、たまに私の方を見てくるので、きっとバレている。

「なぁ、名前。ちょっとおねがい、したい」
「え……?」

顔を上げたレオにそう言われ、は、はと息を零しながらも首を傾げる。この行為自体、別に【お願い】をせずともほぼ夜毎行われているし、この状況で何を……? と思った。

「いいけど、なに……?」
「ん、とな……」

レオは少しもじもじしながら、そっと私の顔を窺った。彼のこういう顔は、昔からとっても可愛くて仕方ない。ついつい甘やかしたくなる。私が何でもやってあげますオーラを出していると、彼はついに決心ができたのか、にっこりと笑ってこう言った。

「口でしてほしい!」
「……え!?」
「おれ、ずっとやってみたかったんだ」
「わ、ちょっと」

彼は私を抱え上げると、私をベッドの傍に置いた。つまり、床にぺたりと座った状態だ。彼はベッドのふちに腰掛けると、がちゃがちゃとベルトの音をさせていた。至近距離で彼の股間を眺める、という異常事態に固まっている私をよそに、彼はスラックスのファスナーを下げた。

ボクサーパンツは既に先走りで湿っていた。雄の匂いが蒸気のように広がって私の鼻孔を犯してきて、頭がボーっとする。彼はさっさと逸物を取り出すと、べち、と私の頬にそれが当たった。マラビンタとか、同人誌だけの世界と思っていた……と現実逃避のように考える。――頬に擦り付けられていることに興奮して、床に水たまりを作っている自分のことはさておいて。

「なぁ、おねがい……」
「あっ……すりすりしないでぇ……」
「でも、こういうの、好きじゃん」
「ち、ちがうし……レオのしゅみ、でしょっ」

口先だけで嫌がってみても、自分の口内には唾液が溜まっていた。こくりと飲み干すと、レオは目を細める。

レオは案外、攻撃的で征服欲の強いひとだと思う。そして私は、もともと上司なんてやりたかった訳でもなく、むしろ従っているほうが楽なタイプだった。それはたぶん、こういう時でも同じ。私たちは似ているようで、違う部分も多く持っている。それがうまくかみ合うから、こんな状況が生まれている、訳だ。

「いれていい?」

その興奮しきった目で見られると、頷くほかないのだ。
是とした私のジェスチャーを見ると、レオは私の頭を持って腰を進めた。歯を当てないように口を開き、舌で竿の方を舐めあげる。いつかこういう日が来るかも、なんて思ってちらちらと雑誌の記事やネットを活用していた甲斐が、ありそうだ。

レオの掌がそっと頭から離されると、先端の方だけを口に含みなおす。記憶がおぼろげなのでどうすればいいのかは良く分からないが、舌で溝のところを舐めていく。竿の方は、力加減が不明なので、優しく掌で擦るだけにとどめていた。

想像していたよりも苦い。けれど、熱気にやられた頭は、味などさして問題にはしていなかった。奉仕している、というシチュエーションにすっかりと意識を食いつぶされていた。

「んっ……名前、もっと強く擦って……」

言われるがまま、右手でそれを掴んだ。すこすこと擦っていくと、舌に乗っていた先端から透明な液が溢れてくる。ぢゅる、と音を立ててすすると、レオは益々興奮したような顔でこちらを睨みつけるように見てきた。

「っふは、やば……動いていいっ? いいよな?」
「んぅう!?」

がっ、と頭を掴まれて口内に再びそれが押し込まれていく。目から生理的な涙が零れ落ちてくるけれど、自分の目はやらしく蕩けているのは自覚していた。

「んんっ、んぐぅっ!」
「ああ……最っ高だな!」

レオが恍惚とした表情でそう言った。テクニックだとか、そういうものは皆無だっただろうに、頬はずいぶんと紅潮している。ああ、彼もこの状況に酔っているのだと頭の隅で理解し、嬲られる快楽に身を委ねていく。

「っあ、イく……!」

喉の奥の方まで差し込まれ、ぐりぐりと咽頭に擦り付けられたと思ったら、そこでレオが射精した。奥の方でされたせいで、私はもう飲み干すしか選択肢がなかった。どろどろとした固形に近いそれは、飲み込むのにも苦労するほど濃い。単独任務をしている間、溜まっていたのかもしれない。そう思うとなんだか愛おしくなって、ちゅ、と離れていく先端に自らキスを落とした。

「ちゃんと、飲めたか?」

珍しく息を乱すレオが、それでも満足げに目を細めている。彼は私の頬を幾度か撫でると、唇を開けるように告げた。全部飲めました、という証拠のように口を開けて、ちょっと舌を見せる。彼はごくりと唾をのむと、嬉しそうに「良い子」と私の髪を撫でた。彼のモノは既に硬度を取り戻しつつあって、また油断すれば頬に当たりそうだった。

「レオ……」

熱っぽい瞳で、硬さを取り戻したそこを見つめる。すっかり先ほどの奉仕で滑った手を、もう一度そこに這わせると、彼は少し苦笑して私の体を抱き上げた。

「もうダメ」
「……なんで?」
「次はおまえの中で、出したい」

そういうと彼は私をベッドに横たえ、両足を大きく開かせた。躊躇なく顔を私の割目にうずめてくるので、毎回恥ずかしくって仕方がない。

「ひゃあっ! あ、らめっ、舐めないでぇ」
「名前も舐めただろ?」
「それはぁ、レオがやってくれって……ああっ」

じゅるじゅると恥ずかしい音を立ててレオが愛液を啜ってくる。正直言って私のそこは蕩けきっていて、わざわざ舌で解す必要性など皆無だろうに、レオはこうするのが好きなのだ。たまにマーキングするように、太ももに彼が鼻先をすりすりしてくるのは、ちょっと可愛かったりもするけれど、太ももにまで舌を這わされるので、ちょっと恥ずかしい。

「あっ、あうっああ」

びくびくと太ももを震わせ、一度絶頂を迎える。潮を吹いたけれど、レオがそれすら飲み干そうとしてくるので、羞恥が限界を超えてまたイってしまった。ようやく彼が上体を起こしたころには、私は既にくたくただった。何回イかされたの? と考える余地もない。

「……もういいか、名前」
「うんっ……きて……」

彼の首に腕を回して抱き着くと、がっしりと腰を掴まれ、そのまま勢いよく挿入された。ガツガツと遠慮のない動きはレオらしい。すぐに力が抜けた私は、ぱたんとベッドの中に上体を押し戻してしまう。ひっきりなしにあがる声を抑える努力もやめ、少し余裕のない彼の表情を眺めた。

ゆらゆらと、視界の端で、橙色の『しっぽ』が揺れている。ほんとにライオンみたいだった。獰猛な光を宿してこちらを見抜く緑の目、遠慮のない揺さぶり、私を征服していく姿。捕らえられたら、最後なのかもしれない。

「名前――っ、」
「あ、あ、レオ、だめっだめっ、きもちいよぉ……!」
「気持ちいい? ほんとっ?」
「あ、あああっ」
「っ、締め付けすぎっ……」

レオは何事か言いたげだったが、もはや快楽を追う以外、私にはできなかった。

「あああ、レオっ、い、イっちゃうっ――!」
「っく、ううっ」

目の前が白く明滅した。ぎゅううと搾り取るように締め付ける中に、勢いよくレオの精液がたたきつけられて目が回りそうだった。勢いが凄まじいのは、任務明けだからなのだろうか。長い射精に、レオは酔ったように私の首筋に顔をうずめた。がぶがぶと齧られて、ちょっと痛い。

「っああー……気持ちよかった……すっごい出た……」

レオの少し上がった声が、至近距離で響く。彼の言葉に、なんとか返事をしようと思ったけれど、今の語彙力は果てしなく低い。

「おなか、あついっ……」
「そっか」
「赤ちゃんできちゃう……」

語尾にハートがつくような、恥ずかしすぎるセリフだって今なら言える。ごくりとレオの喉仏が上下したのを、眺める余裕だってある。

「孕んでくれるの?」

レオは少し低い声で呟いた。その声に、私の意識は衝撃を受けたようにはっきりとしてきた。

「レオ……」
「なぁ、おれ、ほんとはお願いしたいこと別にあったんだ。でも、【お願い】なんて使ったらカッコ悪いから、フェラしてってお願い使ったんだけどな……」
「う、うん」

なんとなく、なんとなく、心臓がどきどきした。レオの目元は、運動のせいで赤くなっている訳じゃなさそうだ。

「おれ、お前と本当の夫婦になりたい。偽造書類じゃなくて、ほんものの婚姻届けを出したい。ほんとに『月永』になってほしい……」
「ほ、ほんとにっ……?」
「嘘なんかつかない! ってあああ、なんで泣くんだよ!」

レオが慌てたように私の涙をぬぐった。その手を引いて顔を傾けさせ、自分からキスをする。これが、私の返事だ。レオにもすぐ伝わったのか、彼も少し泣きそうな顔をして瞼を閉じた。ライオンみたいに強くって、勝気なくせに、彼は私と一緒で、結構泣き虫なのだ。