MATCH-UP

 私の今の状況を簡潔に説明しよう。
 大学生にもなったしいよいよ本格的に彼氏を探そうと思ってマッチングアプリに登録したら幼なじみとマッチングした。以上。
 こんなことがあってたまるか。
「なんでマッチングアプリなんか登録してんの!?」
「圭が俺もやるからお前もやれって……」
「出ーた出た出た葉流火の圭至上主義! 自由意志持ちなってそろそろ!」
 デートだからって気合い入れてメイクした自分が馬鹿みたいだ。
「ダルすぎ〜。今日この後誰か会える人いないかな〜」
 そう言ってマッチングアプリを開くと、葉流火が「?」と首を傾げた。
「俺ともう会ってる」
「葉流火だけは嫌だから言ってるんだが」
「俺はお前でいい」
「ホント口のきき方に気をつけなよ」
 誰が好き好んで女心……というより人間の心を理解してない葉流火を彼氏にしなければならないのか。葉流火の良いところは顔面の良さくらいだけど、それだけで性格や野球馬鹿の負債を返しきることはできない。
 負けず嫌いの葉流火はムッとしながら「俺にしろ」と言ってくる。イケメンに言われたらグッとくるセリフ一位なのに葉流火に言われるとゾッとする。
「絶対に嫌だ〜〜」
「なんで」
「私彼氏は頭が良くて顔が良くて気遣いができてお金持ちな人がいいから」
「……? そんなやつがいたらもう彼女いるだろ。いなくてもなまえを選ばない」
 この後私が吐いた悪態はあまりにも花も恥じらう乙女が言うべき言葉ではなかったので割愛する。
「俺の何が悪い」
「何がって……顔以外の全部かな……」
 怒った葉流火がまた「どこが」と突っかかってくる。
「例えばさぁ〜葉流火、試合の日とデートの日が被ったとするじゃん?」
「? 試合の日にデートはしない」
「例えばの話だってば!! もし被ったらどうする?」
「試合に出る」
「だよね。べつにそれが悪いってんじゃないけど、私はそこで私を優先してくれる人がいいわけ」
 うっとりと理想を語ると葉流火は「試合を見に来たらいいと思う」と言う。
「そういう話じゃない!! 私は世界中が敵に回っても私の味方でいてくれる人がいいの!!」
「世界中が敵に回るくらい悪いことしたんなら自首したほうがいい」
「あんたって一日に100回私を怒らせるノルマでも抱えてる?」
 そういうこと言ってるんじゃないのにな〜と思いながら、私は葉流火のスマホを奪った。
「わかったわかった、私が幼なじみとして責任もって新しいマッチング相手見つけてあげるから」
「いらない」
「葉流火、どんな子が好き?」
「俺の球捕れるやつ」
「ゴリラはマッチングアプリにいないんだって」
 とりあえず、野球好きな子から探してみるか……野球ファンでも葉流火のこの野球馬鹿ぶりにはドン引きだろうけど……
「あー、ご飯食べるの好きな人とかいいんじゃん? あんたもいっぱい食べるし」
「うん」
「あとはー、あんたアホだから引っ張ってくれる子がいいよね。受け身の子だとたぶん会話すら始まらないから……リード上手な子……」
「……」
「あとは面食いで、顔の良さである程度のミスを水に流してくれそうなチョロそうな人……」
 次々と候補を絞っていくと、葉流火が私の手からスマホを奪い返した。
「どしたん」
「お前だ」
「え、なんで急に怖い話のオチみたいなこと言ったん?」
「今の条件。一番当てはまるのがなまえだった」
 ハァ? と思いつつ頭の中で考えてみる。まあ確かに野球は嫌いじゃないし食べるのも好きだし昔から葉流火のお世話には慣れてるしイケメン好きなことは否定できないけど……
「い……いやだ〜〜……」
 本当に怖い話のオチだった。
 くしゃりと顔を歪めて半べそになると葉流火はムッと頬を膨らませた。うう……可愛い……けど嫌だ……
「お願いします見逃してください」
 まるでカツアゲにでもあってるみたいに机に両手を揃えて深々と頭を下げる。葉流火と付き合ってしまったら私の人生は終わってしまう。
「俺はお前でいい」
「こういう時はせめて『お前が』って言おうか!!」
 私はひしひしと嫌な予感を感じていた。葉流火が圭至上主義なのと同じように、圭も圭で葉流火のためにやりすぎるところがあるから……もしかしたら、葉流火がマッチングアプリに登録して、今日この場に私たちがいることも全部、かつて『智将』だったあの男の計画だったりして……
 冷や汗をかきながら、いやまさかね……なんて乾いた笑いを零しても、目の前の美しいゴリラは私を解放してはくれなさそうだった。


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