Mi bebé

 ドアが開く音とともに、バタンと重いものが倒れる音がした。なまえは今日は部屋まで辿り着けなかったか、と思い玄関まで優助を迎えに行った。
「おかえり、優助くん」
「む……ムリだ……俺にはやっぱり荷が重い……」
「はいはい。今日は豚の角煮だよ」
 いつものように弱音を受け流すと、なまえは優助の頭を撫でた。外では「大人」として最低限の意地を見せているらしい優助だが、家に帰ると毎日あれが嫌だこれが嫌だと泣き言が止まらない。
「今日もお疲れさま。頑張ったね、優助くん」
「なまえちゃん……!!」
 ぎゅっと抱きついてくる優助を受け止めると、よしよしと頭を撫でる。先日まで引きこもりニートだった優助だが、最近都立高校の監督として働きだした。働き始める前は散々弱音を吐いていたものだが、初めてからは弱音だけではなく、今日はあれができるようになった、とか、今度はこれを試したい、とかそんな前向きな言葉も出てくるようになった。しかもそんなことを言っている時の優助は子どもみたいにあどけない顔をしていて、それが可愛くて仕方ないのだ。
 なまえはもともと学生の頃から選手として優助を応援していたし、放っておけない質なので優助がニートになってからも定期的にご飯を作ったり部屋の掃除をしたりと世話を焼いていた。部屋の中で腐っていた時とは違い、最近の優助は久しぶりに楽しそうで、しかもそれが「野球」にまつわることで、それがなまえは嬉しくてたまらなかった。
「最近部員たちの視線が冷たい気がする……」
「だいぶ最初からじゃない?」
 なまえがレイラから聞いた球児たちとの初対面は相当なものだったようだが。よく受け入れてもらえたものだと思う。
「な……なんでそんなこと言うんだ……こっちは赤ちゃんなんだぞ……」
「もう立派なおっさんでしょ〜」
「おっさんだって赤ちゃんになれる!!」
「ふふ、優助くん甘えんぼさんだもんね〜」
「バブゥ……」
 胸の膨らみに顔を埋める優助の体を揺らしていると、本当に赤ちゃん返りしてしまった。
「よーしよーし、明日からも頑張るんだよ〜」
「バブ……」
 優助はしばらく体を揺らされてあやされていたが、やがてするりとなまえの腰に手を回した。
「こら。赤ちゃんはそんなことしないよ」
「何を言ってるんだ。俺は立派なおっさんだ」
「その小狡さはおっさんだね〜」
 なまえは笑うと、ポンポンと優助の背中を叩いた。
「いっぱいバブバブさせてあげるから、とりあえずお風呂入っておいで? ほら立って」
「なまえちゃん……!!」
 優助の扱い方を熟知しているなまえに操られ、優助は素早く風呂場に入っていった。
「よし。これでお風呂はクリア。あとはご飯食べさせなきゃ」
 なまえは風呂上がりの優助の食欲を刺激するため、部屋の中に角煮の匂いを充満させようとキッチンに向かった。


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