グリッター
- 私の作っただし巻きを食べた瞬平は一瞬微妙な顔をした。
「美味しくない?」
それを目ざとく見つけてしまって問いつめると、瞬平は「そんなことないですよ」とニコッと笑った。
「ウソ。ちょっと微妙な顔したじゃん」
だし巻きを摘んでみるが、味見をした時と同じ味で、特別不味いこともない。と思う。
「何かあるなら言ってよ」
「いや……、……これ、粉末だし使ってます?」
私は数秒惚けた後、お弁当箱の蓋を乱雑に閉じた。
「もう食べなくていいよ」
「いや、おいしかったですよ」
「私が食べてほしくないの」
きゅっとランチョンマットを結ぶと、私は教室に戻ろうとした。
「ちょっと待ってください」
「離して」
「違うんですって……」
「なにも違わないよ!!」
恥ずかしくて真っ赤になった顔を見られたくなくて、俯いたまま叫ぶ。
「……別れる」
「はあ?」
「無理だと思う。別れたい」
「ちょっと、短絡的すぎませんか。俺は……」
「私、瞬平に釣り合ってないと思う……」
だって私は粉末だしだってめんつゆだって使うし、頭も良くないし、足も遅くてどんくさいし、部屋は散らかってるし。
「これからずっと、引け目感じていくなんてやだ……」
きっと瞬平は、粉末だしを使わなくたっておいしいだし巻きが作れるし、成績の学年順位は一桁だし、その道の人にはちょっとした有名人なくらい野球だって上手い。瞬平の隣にいるべきなのは私じゃない。
私は粉末だしを使えないことが悲しいんでも、粉末だしを許さない人と付き合いたくないんでもない。
今までずっと感じていた瞬平への引け目がここで爆発しただけのことだ。
「俺の話も聞けよ!!」
怒鳴られてびくっと体を跳ねさせると、「あ……すみません」と瞬平が気を落ち着けるようにメガネのブリッジを押し上げた。
「……俺がいつも何考えてるか分かりますか」
「分かるわけないよ……」
「俺なんかが彼氏で本当にいいのかってことです」
「……え?」
「俺は性格悪いし、嫉妬心で人の努力を無下にするような最低な人間です。周りが眩しくて堪らないんです」
「な……何言ってんの!? 瞬平だって眩しいよ!! 球場でいつも私……!! ……こんな人と私が付き合ってていいのかなって思う……」
「……だから、俺のことが嫌になったならともかく、そういう理由なら了承できません。たとえ嫌になったとしても足掻かせてください」
瞬平が私を引き寄せる。しわのないシャツから、ほのかに洗剤の匂いがした。
「ずるいよ……」
私の頭を撫でる瞬平に抱きつくと、瞬平が「あの」と咳払いをした。
「……弁当、食っていいですか。実は今日朝メシ食べてないんです」
「珍しいね……寝坊?」
「……男ってのは彼女が弁当作ってくれるなんて聞いたら楽しみで朝メシなんて食べられないもんなんです」
今瞬平がどんな顔をしてるのかが知りたくて堪らなくて顔を上げようとしたら、瞬平にがっちりと後頭部を押さえつけられて阻止された。
「お弁当、食べていいから顔見せて!」
暴れながらそう言うと渋々瞬平が拘束を緩めた。
顔を上げるとそこには頬を赤らめた瞬平がいて、私は眩しさと嬉しさで目を細めた。
感想はこちらへ