おくすりのめたね
- 恋人が風邪を引いた、という。
とにかくすぐに来てほしいと電話口で涙混じりに懇願するなまえのために、薬やスポーツドリンクなどを調達しながら家に向かっていた。その間も「はやく」「いまどこ」「さびしい」など、なまえからのメッセージを受信し携帯は絶えず振動していた。普段も甘えるのが好きな彼女だが、体調が悪いときは少し度を超える。
なまえの家に到着し合鍵でドアを開けると、上がり框のすぐ近くに膝を抱えて座り込んでいるなまえがいた。
「寝てないと駄目じゃないか」
「なんですぐ来てくれないの」
ぐすぐすと鼻を鳴らすなまえに謝罪しながら額に触れると、かなり体温が高いことが分かった。
「悪かったな、寒かっただろう。薬を買ってきたから飲もう」
なまえを抱えて移動し、ベッドに寝かせて肩まで布団をかけた。
「食欲は?」
顔を横に振るなまえに、噛んで含めるように言い聞かせた。
「今から、台所に皿を取りに行ってくる。三十秒で戻るから、ちゃんと寝てられるな?」
なまえが緩慢に頷いたのを確認してから宣言通り台所に向かう。
「かずきくんどこ行くの……」
しかしのそのそと起き上がってしまったなまえにため息を吐きながら慌てて引き返した。
「寝てる約束だろう」
熱で朦朧としているなまえに言っても仕方ないと割り切り、なまえの体を毛布でくるんで台所まで一緒に連れていく。小皿を借りると、ゼリー状のオブラートと薬を皿に出した。
「少しでいいからゼリー食べような。俺が食べさせてやるから」
大人しく頷いたなまえとともにベッドに戻り、ゼリーを口元に運んでやる。特に疑うことなくゼリーとともに薬を飲み込んだのを確認して頷いた。
ゼリーを食べ終えたあとはなまえをベッドに寝かせて頭を撫でた。
「ここにいるから、少し寝ろ。きっと起きたら良くなってる」
彼女はもぞもぞと掛布団をめくった。
「かずきくん、来てえ」
「寝るまでだぞ」
そう言ってなまえの隣に潜り込む。布団の中は彼女の体温で温かかった。
「だめ。ずっとここにいてね。どこにもいかないでね」
「トイレも?」
「うん」
「そりゃ厳しい」
笑いながらなまえの背中を撫でると、なまえが胸に擦り寄ってきた。
「早く良くなれよ」
そう言うころにはもうなまえは穏やかな顔で眠っていたので笑ってしまった。
その後、俺がベッドを抜け出して皿を洗っている最中に目を覚ましてしまいぐずったなまえをあやすのに時間を要した。
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