厄除けまたはお守り



「すわ〜〜〜〜!!!!」
キンと耳に響く声ですら不快に思えない。
「んだよ、やかましい」
口ではそんな憎まれ口を叩くが、なまえと話ができたというだけでダルい夜勤が意味を持つ。
「見て見て見て、諏訪!」
胸元を指すなまえの指の先を辿ると、そこには立方体のペンダントトップがぶら下がっていた。なまえが自分を連想するようなものを身につけているということで上機嫌になった諏訪は反射的に褒めようとした。しかし直前でキューブを俺と呼ぶのは普通に悪口だな、と思い直した。
「、シバくぞ」
結果、妙な間が開いてしまったが、なまえがそれを気にした様子はない。
「運命的な出会いだったよ〜!見た瞬間、諏訪だ!って思って、気づいたら買ってた!」
それはどういう意味だと問い詰めたい。運命とは、人間の意志を超越しためぐり合わせのことだ。それでなんで俺だと思ったアクセサリーを買うんだよ。それらの疑問をグッと飲み込んで、「あっそ」と素っ気ない返事をした。
「今日夜勤誰がいるかな〜?みんなに見てもらお!」
「やめろ」
浮かれた様子のなまえに、なんだかマーキングでもしているようで悪い気はしないので、「やめろ」と言いつつも諏訪の口調はそれほど強いものではなかった。まあ今日くらい、と思いその日は別れたのだが、その翌日出会ったなまえはまた同じペンダントをつけていた。気になりはしたが、その時点ではまだ「また俺ついてんな」程度の認識だった。しかしその翌日もさらにまた翌日も諏訪は同じ確認をし、彼女の諏訪着用日数はどんどん記録を伸ばしていった。

「最近毎日毎日俺つけてんのなんなんだよどういうつもりなんだよ」
ジョッキをテーブルに叩きつけるのと同時に愚痴を零す。いつもの面子での飲み会で、ここにいるメンバーは全員諏訪の気持ちを知っているので諏訪も半ば自棄になりながら最近頭を悩ませていることを口走った。
「その疑問には俺が答えてやろう」
アルコールにより頬を紅潮させた風間がそう言う。
「おめーはすっこんでろ」
「今日あいつになぜ諏訪をつけているのか聞いたばかりだ」
「てめーたまにはやるじゃねえか!今日は俺の奢りな!」
立方体を俺と呼ぶなとシバくことも忘れて諏訪は風間の言葉を待った。
「『厄除け』だそうだ」
「……あ?」
「強い厄を身につけることで他の厄を追い払うってこと?」
遠慮のない雷蔵の言葉に諏訪は机に突っ伏した。
「さっき奢りって言ったな。ありゃウソだ」
その言葉の送り先である風間は既に眠りこけていた。
「そうとは限らないだろ。単に諏訪が頼りになるってこととも取れる」
「いや……余計な期待しないどくぜ。だって俺だぜ……」
珍しい諏訪の弱気な姿に、雷蔵とレイジが顔を見合わせ、今日は奢りだと諏訪の肩を叩いた。

その数日後、事情を知らないままなまえに「最近それよくつけてますね」と言い、「だって諏訪って頼りになるでしょ」という言葉を引き出した日佐人は諏訪により人気コーヒーチェーン店の新作フラペチーノを奢ってもらったのだった。



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