ライバル
- 玉狛支部の居間に見知らぬ女性が座っているのを見た修は足を止めた。お互いに「誰だろう」という顔をしながらお辞儀をし合う。
「みょうじ先輩来てたんすか」
修の後ろから部屋に入ってきた烏丸がそう声をかけると、「お邪魔してます」と女性が口を開いた。
「あの……玉狛の人ではないですよね?」
もしや自分がまだ会ったことのない支部の人かと思い、こそっと烏丸にそう訊ねると、きっぱりと否定された。いわく、「本部のエース」らしい。そんな人がなんの用で……と思っていると、玄関の方からパタパタと軽い足音が聞こえてきた。すぐにリビングに小南が入ってくる。
「桐絵」
それを見た瞬間、なまえが嬉しそうに顔を綻ばせて小南の名前を呼んだ。
「久しぶりじゃない!」
小南も嬉しそうに声を上げている。どうやらなまえの用事は小南にあるようだ。
「今から付き合ってくれない?」
気さくにそう話しかけるなまえに対し、小南はあっけらかんと言い放つ。
「そう言えば、言ってなかったけど、しばらくはなまえの相手できないわ」
なまえの顔が曇る。「どうして」と問いかけるような表情に、小南は胸を張った。
「私、最近弟子ができたのよ」
「で、し?」
まるで初めて聞いた単語だと言わんばかりに惚けるなまえを気にもとめず、小南は修の方を見ると「遊真はどこよ?」と聞いた。
「た、たぶん部屋にいると思いますけど……」
「ちょうどいいから紹介するわ!ちょっと待ってて!」
そう言って部屋を飛び出していった小南は、少しすると遊真を引きずって戻ってきた。
「こいつ、遊真。最近玉狛に入ったばかりなの。なかなか面白いやつよ」
「桐絵が弟子にするくらいだから、そうなんだろうね」
そう返すなまえはどこか浮かない表情だった。
「こなみ先輩、この人は?」
遊真がそう訊ねると、小南は「私のライバルよ!」と言い切った。あの小南がライバルと呼ぶ女性に興味を引かれたのか、遊真が「ふむ、いつか手合わせしたいものだ」と呟く。それに食いついたのが小南である。
「それいいわね!そうよ、私の代わりに遊真と手合わせしてやってよ!」
「ええ、構わないけど」
そうしてトントン拍子に話が進んでいって、二人が訓練室に入っていった。三十分ほどして訓練室から出てきた遊真は、「負けた。3−7だ」と申告した。「本部のエース」で「小南のライバル」というのは伊達ではないらしい。「面白い子ね」と呟いたなまえは、沈んだ表情のまま帰っていった。
数日後、修と遊真が本部に顔を出すとなまえと出会った。三人で軽く会話をするが、なまえには胸に一物があるような歯切れの悪さがあった。先日も表情が暗かったことを思い出し、修は「何かありましたか?」と声をかけた。
「……驚いた。よく見てるのね。それとも私が分かりやすかったのかな」
眉を下げて笑うなまえは、「実はこの前玉狛に行ったときからモヤモヤしていて」と打ち明けた。その理由が自分でも分からないから、どうすることもできないらしい。
「ふむ、それは困りましたな」
唇を突き出した遊真は、「玉狛に原因を探りに来たら?」と提案した。少し考え込んだなまえは、このまま悩んでいても仕方ない、と頷いた。
三人で玉狛まで帰ると、リビングには小南がいた。
「珍しい組み合わせね」
目を丸くしてそう言う小南は、ライバルの訪問に喜んでいるようだったが、なまえの浮かない顔つきに気づき、どうしたのか尋ねた。
「いまモヤモヤの原因を探ってるところなんだ」
そう遊真に説明されてもよく分からなかったらしく、小南が元気づけるように「久しぶりにバトルでもする?」と声をかけた。その言葉に顔を綻ばせたなまえは、次の瞬間考え込むように俯いた。数秒後、突然笑いだしたなまえに、一堂が驚く。
「ごめん、モヤモヤの正体が分かったの」
「ほう」
「私、桐絵の『弟子』に嫉妬していただけみたい」
「……なっ!?」
顔を真っ赤にして固まったのは小南だった。
「ごめんね、私との時間取られちゃった……なんて子どもみたいなこと考えてたみたい」
「ほほう、それは悪いことをしました」
「ううん、いいのいいの。気づいたら笑っちゃうくらいしょうもないことで、逆にスッキリしちゃった」
言葉通り引き摺ったりはしていないらしい、晴れ晴れとした顔だった。随分サッパリした人だと修は思う。
「な、ななな、何よそれ!」
代わりに騒ぎ始めたのは小南だ。嬉しさと恥ずかしさが綯い交ぜになった顔で頬に手を当てている。
「私は桐絵のおかげでここまで強くなれたから、桐絵にはこれからもみんなの指標になってほしいの」
優しい眼差しで微笑んだなまえは、次の瞬間悪戯っぽく笑った。
「……でも、たまには私の相手もしてくれないとまた妬いちゃうかも」
からかうようなその言葉に、小南が頬を赤らめて叫んだ。
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