お酒の席ですから



 おわ、と口を開く。
 目が合った太刀川くんは口元に浮かべた笑みを崩さずにじっと私たちを見つめている。
「ちょ、ちがうちがうちがう、これは二宮くん酔ってるから、」
 ここは居酒屋の廊下だというのに私に抱きついて離してくれない二宮くんの背中を「ちょちょちょちょちょ」と何度も叩く。
「別に良くね? お前ら付き合ってんだし。店ん中だからそれ以上はすんなよ〜」
 太刀川くんは笑ってトイレへと向かった。
 私は顔を真っ赤にしながら体に巻き付く二宮くんの腕を引き剥がすと、介抱のために持ってきていたお水を二宮くんに突きつけた。
「もう……もう!」
 見られた。同期に。太刀川くんに。恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。
「飲みすぎ! お水飲んで!」
 グラスを持つ私の手に指を絡めようとする二宮くんの手を叩き落とした。
「ばか!」
 私は知人に恋人とイチャついているのを見られるのが何より苦手だった。普段の二宮くんならそんな心配することもないのだが、今日は飲みすぎていた二宮くんが公共の場だというのに私を抱きしめて離さなかったのだ。
「なんだ」
 じとりと恨めしそうにそう言う二宮くんに、「太刀川くんに見られた!」と恨み言で返す。
「もう、恥ずかしくてしばらく太刀川くんの顔見れない……」
「問題ないだろ」
 そう言って再び私の肩に額を預けようとする二宮くんの胸を押し返す。
「あるよ! ばか! もうしばらく二宮くんとイチャイチャしない……! 太刀川くんに見られたの思い出しちゃう!」
 私が頬に手を当ててそう嘆くと、据わった目でじっと床を見つめた二宮くんはもう一度「問題ない」と呟いた。
「太刀川を殺せば解決する」
「まだ酔ってるね!?」
 ゆらりと揺れて私にしなだれかかる二宮くんを放っておくこともできず、腕で受け止める。
「俺とばっちりすぎね?」
 いつの間にかトイレから戻ってきていた太刀川くんに私は再びおわ、と口を開いた。



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