マイ・ディア・ベタ
- 「ねえ見て見て」
スマホの画面を二宮に突きつけると、二宮はフラッシュカードでも見てるのかと思うくらい瞬間的に一瞥をくれた。
「飼いたいのか」
一応、ちゃんと見てはいるらしい。素晴らしい動体視力だこと。スマホの画面には、見るものの目を楽しませる観賞魚が映っていた。
「ベタって言うの。綺麗だよね。ヒレがひらひらしててドレスみたいで」
二宮はそれがどうしたと言わんばかりに目を落としていたタブレットからちらと視線を投げて寄越した。
「でも飼育には向いてないんだよね〜。なんででしょうか!」
マイクを差し出すフリをするが、二宮は一言「知らん」と答えただけだった。
「ねえ〜〜会話のキャッチボール!! もうちょっと話広げる努力しよっか?? そういうとこだよ年下に慕われないの」
二宮はそれには答えずタブレットを見ている。私も負けじと話題を強引に元に戻す。
「ベタって綺麗だけど、気性が荒くて他の魚と一緒にしたら他の魚がストレスで弱っちゃうんだよね」
つんつんと二宮の腕をつつくが、二宮は聞いているのかいないのか、いやまあ聞いてはいるんだろうけど、反応を返してくれない。
「二宮みたいだよね!」
ニッコリ笑って嫌味を言ってみても、二宮は気を悪くした素振りもみせず、無表情で視線を左から右に動かすだけ。そろそろタブレットから顔を上げろ。
「ねえ〜彼女にこんなに嫌味言われてんだよ? 今のお気持ちは!」
わざと顔の近くで喚くと、二宮はやっとタブレットから顔を上げた。そして無表情でこんなことをのたまう。
「『気を引きたくてわざと突っかかってくるところが可愛いなこいつ』と思った」
「……」
私はずるずるとソファに寝そべると、げしと二宮を足蹴にした。
「そういう意趣返しの仕方やだ」
「ただの本音だ」
「……ていうか分かってて無視してるの性格悪くないか!?」
ハッと気づいてそう叫んだら、二宮が小さく息を吐いた。笑いやがって。
「も〜いい加減構え構えかまえ〜〜!!」
ひらひらとヒレを翻すと、二宮は邪魔そうにしながら、私の足が当たらないようにタブレットを持ち上げた。
「もう少し待て」
「彼女といるんだから課題なんか後回しにしろ〜!」
「逆だろ。おまえを構うために今片付けてるんだ」
「……私18時には帰るから」
「泊まるだろ」
「それはどうかな〜〜」
内心では泊まっていい(というより二宮はもとからそのつもりだった)ことに喜びつつ、癪なのでそれを悟らせないように駆け引きをして、私は「もう少し」大人しく待つことにした。
都合よく、ちょうど推しの俳優がインスタライブを始めたのでそれを見ていると、徐々に二宮のことは頭から抜けていった。
「終わった」
「今推しのインライ始まったから後にして〜」
そう言うと不遜な二宮は「あ?」と威嚇音を発して私のお腹に手を回して後ろから引き寄せた。
「あと何分するの〜? っと…………ウソ、私のコメント読んでくれた!」
後ろの二宮に「あと30分くらいだって」と伝えると、二宮は「長ぇ」と言う。
「ねえ見て、新しいドラマ始まるから今黒髪にしてるんだけど、このビジュ優勝してない?」
「知るか」
「あと30分くらい課題とかしてて〜」と自分勝手なことを言うと、二宮は私の首筋に唇を落とし、歯を立てた。
「『気を引きたくてわざと突っかかってくるところが可愛いなこいつ』〜!!」
そう言うと二宮が強めに歯を立てて、私は「痛い痛い」と笑い声を上げた。
「あちょっと待って、スクショタイム。今はまじでやめて」
キメ顔の推しを何枚もスクショしていると、二宮は舌打ちをしながらも大人しく待っている。
スクショタイムと新しく始まる番組の宣伝をしたあとで配信は終了した。撮ったスクショの確認をしたかったが、強引にスマホを取り上げられたので諦めて二宮に向き直る。
「よく待てまちたね〜よしよし!」
あえて明るく振る舞ってあげたのに、二宮は怖い顔で頭を撫でる私の手を取るとそのまま私を押し倒した。二宮は駆け引きはしない。それなのにいつも私の感情を揺さぶってくる。
「本当に気性が荒いな〜私のベタは」
目を細めて二宮の髪の毛に指を通すと、私は二宮の顔をそっと引き寄せた。
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