ラブ・ミーティア!
- 今日こそ、伝えなければ。唇を噛みしめてみぞおちに力を入れ顔を上げた私は二宮くんの名前を呼んだ。
「──別れてほしい」
振り返った二宮くんは特に表情を変えずに、「断る」と切り捨てた。私はぐっと続けられなかった言葉を飲み込んで俯いた。
「一週間前にも同じことを言って別れるのを撤回したばかりだろうが」
二宮くんの呆れたような声に、私は小さく「だって……」と呟いた。
「おまえは一週間ごとに別れを切り出される気持ちがわかるか」
「だったらいっそのこと別れたら……なんでもないです」
二宮くんが睨むとその凄みで私は何も言えなくなってしまう。怖っ。
「また何か言われたのか」
ため息をついて歩き出した二宮くんをとぼとぼと追いかける。
二宮くんは顔がいい。頭もいい。運動もできる。スタイルもいい。だからモテる。でも、二宮くんに告白しようなんて子はいなかった。告白したところでバッサリと拒否されるだけだからだ。だから、みんな誰のものにもならない二宮くんのことを影から眺めては想いを馳せていた。
それなのになんやかんやあって私と二宮くんが付き合うことになって、六頴館の女子は阿鼻叫喚の地獄絵図になった。まだ加古ちゃんとか、美形で目立つ子が相手なら諦めきれるものを、こんな何の取り柄もないパッとしない女が相手なのだから、物申したくなる気持ちはよくわかる。それでも毎日のように「釣り合ってない」なんて言われると心が痛むのだ。それに加えて。
「おまえが弱いのが悪い。んな言葉を気にするな」
二宮くんはこの調子なのだ。あのさ、彼女がチクチクされてたら、普通は庇ったり慰めたりしない?
「ちょっとは慰めてよお〜……二宮くんみたいなメンタル強者にはわかんないんだ……」
二宮くんが、私だけに優しい言葉をかけてくれたら、少しくらいは励まされるし元気出るのに。
「二宮くんは私のどこが好きなの」
私がそう呟くと、二宮くんはわざとらしく大きなため息を吐いた。
「……また言わせるつもりか」
「だって、言ってもらえなきゃ安心できない」
私がぐずるように涙目で見つめると、二宮くんは諦めたように今度は小さくため息を吐いた。
「……おまえの、意味不明な話を聞くのは嫌いじゃない。あとおまえの書く字。表情がすぐ変わるところ」
二宮くんによって列挙された「好きなところ」を飲み込んで、私は口を開いた。
「いやそういうのじゃなくて」
「あ?」
威嚇しないで。怖い。
「二宮くんの好みってちょっとおかしいからなあ……もっと万人が納得するようなやつお願い」
そう言うと、眉間に皺を寄せた二宮くんに頭を掴まれて揺さぶられた。いや揺れる揺れる。強っ。
「いい加減にしろよ」
「言ってくれなきゃ別れるもん」
「……」
私がむくれてみせると、二宮くんはどこか一点を見つめ出した。すべてを諦めた顔だ。
「……笑った顔が可愛い」
小さく絞り出された言葉に、私は小さく笑った。
「なんかテンプレっぽいなあ」
「おい」
この瞬間ばかりは、二宮くんに睨まれてもへっちゃらだ。私は二宮くんの大きな手に自分の手を滑り込ませた。今日のところは、また、三行半を取り下げることになりそうだ。
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