あやまち
- 「会長がなんでこんなとこに?」
「会長はやめてくれないか」
困ったように眉を下げる蔵内くんと、居酒屋の一席で向かい合う。男女同数の大学生たちが火花を散らし合う、ここは合コン会場である。
「どうしても数が足りないって言われて……」
「っぽいわ〜〜」
そんな場所に似つかわしくない蔵内くんに、心底頷く。
会長の判断はいつも正しい。だから、蔵内くんがこんな馬鹿な場所に自主的に来るわけがない。
蔵内くんとは高校の時に生徒会で一緒だった。そのころから、蔵内くんはすごかった。本当は三年くらい留年してるんじゃないの?と聞きたくなるくらい(実際一度聞いたら「校則で留年は二年までと決まってるぞ」と微笑みながら言われた)老成してるというか、大人びているというか。できる男すぎて怖かった。言い方は悪いけど、ほとんど蔵内くんのワンマンプレイで生徒会はめちゃくちゃ順調にいっていた。文化祭とか行事前はさすがに忙しかったけど、それ以外の時期はとくに忙しかった覚えがない。蔵内くんが仕事を全部片付けてしまうからだ。
成績よくてボーダー隊員で顔も整ってて身長高くて要領いい、蔵内くんは面白いくらい「全て」を兼ね備えている。私たちが一年生の時に三年生の先輩に二宮さんというめちゃくちゃかっこいい人がいたけど、トータルで見たら(親しみやすさとか)私は蔵内くんのほうが勝っていると思う(一度も話したことないけど比べてごめんなさい)。
だから、会長の判断に従っておけば、間違うことはないのだ。
「会長、ぶっちゃけこの中で一番おすすめの男の子だれ?」
コソコソと耳打ちすると、蔵内くんは困ったように笑った。
「数合わせだから、全員のことをよく知ってるわけじゃないんだ」
蔵内くんは少し考え込むと、「強いて言うなら」と付け加えた。
「俺だな」
その答えに、私は数瞬惚け、噴き出した。
「びっくりした、会長もそんな冗談言えるようになったんだ」
そう言うと蔵内くんは綺麗に微笑んだ。まあお互い、もうお酒も飲める年齢ですからね。
その後、色んな男の子と話してみたけれどあんまりピンとくる人はおらず、後半はもう諦めてひたすら友達のアシストをしていた。ついついお酒を飲むペースも早くなって、お開きになるころには私の足取りは覚束なくなっていた。
蔵内くんが「送る」と申し出てくれたので、それに甘えて家まで歩き出す。本当は一人でも歩けたけど、蔵内くんが「転ぶと危ないから」と言って体を支えてくれた。必然距離は近くなったけど、別に嫌ではなかった。会長の判断はいつも正しいから。
「あれ、会長道こっち……」
「フラフラしてるから、少し休んで行こう」
そう言ってホテルに誘導される。
会長の判断はいつも正しい。
だから、私にはそれは、家まで送ってもらうことよりも、タクシーを呼ぶことよりも、正しいことに思えた。
ホテルの一室でミネラルウォーターを差し出され、ちびちびと飲む。もうお腹ちゃぷちゃぷだからあんまり飲めない。ペットボトルから口を離すと、蔵内くんがペットボトルをそっと奪い、フタを閉めてくれた。
蔵内くんは穏やかに微笑んだまま、私の頬を撫でた。蔵内くんは酔ってるのかな、と思った。
「蔵内くん、なんでここに来たの」
「嫌そうに見えなかったから」
会長の判断はいつも正しい。
けろっとそう言う蔵内くんに、また彼の新しい一面を見たような気がした。
「無理強いする気はないし、本当に休憩だけしたかったらそう言ってくれ」
そう言って微笑む蔵内くんの、隠された表情がもっと見てみたくなった。これも全部、蔵内くんの思い通りだったりするのかな。
「嫌じゃないからいいよ」
そう許可すると、蔵内くんは私の背中に手を回してベッドに倒れ込んだ。ふかふかのマットレスと、ぱりっとしたシーツに埋もれながら見上げた蔵内くんは、ふっと笑って私にキスをした。
感想を簡潔に言うと、この人やばい。これに尽きる。
普段あんなに穏やかなのにあんな一面を隠し持ってたなんて。しかもそれをいつ使えば効果的か、たぶん蔵内くんは分かっててやってる。二時間後には蔵内くんに骨抜きにされていた私は、ベッドの中で蔵内くんに抱きしめられながら、いつも正しいこのひとと出会ってしまったことが、唯一の間違いだったのかもしれないと思った。
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