そうして神聖なものですよ



 かの文豪は恋は罪悪だと言い切った。それは本当に正しいと思う。恋は人を狂わせるもんや。俺は別にそんなもんに振り回されるような性格してへんけど。
 賢くて理性的な蔵っちが彼女と話してる時だけ甘ったるい話し方になるのとか、普段は女よりも男にモテるタイプのイケメンである荒船が彼女に振り回されてるところとか、そういうのを見るとうわ、と引いた目で見てしまう。友達のそういうところを目にするのは気まずい。
 目の前にいるイコさんが、ラウンジに彼女がやってきた途端そっちにばかり目線をくれているのを観察しながら、そんなことを考える。
 おー怖い怖い。やっぱこんな感情、持て囃されるもんと違うやろ。
 ずっと茶を啜っていると、ポケットの中で携帯が震えた。ロック画面の通知を見て俺は顔をしかめた。その顔を見たイコさんがどうかしたかと訊いてくる。
「あー……なんか今すぐ来いて」
「緊急事態なん?」
「たぶんちゃいますよ。いつものワガママです」
 後ろ頭を掻きながらのそりと立ち上がる。
「ちょっと行ってきます」
「水上はホンマに彼女に甘いよな」
 その言葉に目をつぶって「ちゃいますよ」と否定する。
「ほっとくとめんどくさいだけすわ」
 中身を飲み干した紙コップをくしゃりと握りつぶすと、「どこおるん」と返信してラウンジを後にした。



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