ポーカーフェイスが効かない



「どうかしましたか?」
小さな迷子にそっと声をかける。カピバラに跨った男の子は「陽介にあいにきた」と来訪の目的を簡潔に告げた。陽介……米屋くんだっけ?
「チョコ食べますか?」
「!いる」
ちょうどポケットに入っていた糖分を渡すと、彼は小さな手で包みを破って頬張った。その瞬間、幸せそうにその顔がとろけて。可愛いなあ、と思いながら、そういえば三輪隊は臨時の任務が入ったんだったな、と思い出す。
「一人で本部まで来て偉いですね」
「らいじん丸もいるからな」
この立派なお子様にどうやって米屋くんの不在を伝えようかなと考えていると、ちょいちょいと袖を引かれた。
「……きみかわいいね。けっこんしてあげてもいいよ」
生まれてはじめてプロポーズされてしまった、と思い緩んだ私の口を覆うように、唐突に後ろから手が伸びてきた。
「なまえはダメだぞ陽太郎。おれのお嫁さん候補だからな」
「……迅さん!?」
振り向くと、迅さんにナチュラルに肩を抱かれたのでつい脇腹に肘を突き出す。
「いい肘鉄だ……」
形ばかりの謝罪をしながら、現況を手短に説明して陽太郎くんを引き渡す。その間ずっと迅さんはニヤニヤしていたから、きっと今私がどれだけ表情を取り繕ったって、彼には別れたあとに赤面する私の姿が見えているのだとわかって。私はせめてもの意趣返しに迅さんの頬をつねった。



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