君に宿酔
- 「付き合って」
カゴいっぱいに詰め込んだお酒をレジに突き出して、最近できた友人をほとんど睨むように見つめた。
可愛い顔をした赤毛の中国人は、呆れたようにため息を吐いた。
「酒酒酒、酒ばっか。こんなに飲んだら死んじゃうヨ」
「ルーには言われたくない……」
「……だから、あんな男やめとけって言ったのヨ」
「ルーが付き合ってくれないなら、一人で飲むからいいもん」
ルーはまたため息をつくと、同じくバイトのシンくんに仕事を押しつけると、お酒の詰まったレジ袋を半分持って私の家に上がりこんだ。
「なんかココ、ジメジメしてるネ! 換気ヨ、換気!!」
ルーが締め切っていたカーテンと窓を開けたことで、部屋の中にふわっと風が通った。
「こんなとこにいたら運気も下がっちゃうヨ」
ルーが部屋の掃除をしてくれている間、私はベッドに座ってぼんやりしていた。それなのにルーは特に文句も言わなかった。
「……引っ越そうかな」
この部屋には、彼との思い出が詰まりすぎている。
「なに言ってるネ、たった一ヶ月でフラれたクセに」
「期間の長さは問題じゃないの!!」
「だからムカつくネ」
ルーは可愛い顔にゾクッとするくらいの冷たい表情を浮かべた。
「今までのすべてがしょうもない男の一ヶ月に負けるくらい、自分のこと大切にできないお前なんか嫌いヨ」
「……なんで嫌いなんて言うの〜〜?」
ルーの足にしがみついて泣くと、「鬱陶しいネ、まとわりつくな」と暴言を吐かれた。
「ルーに嫌われたら、私一人ぼっちになっちゃう……」
「ならウジウジやめるネ」
つんと素っ気ないルーは、私を放置して冷蔵庫の中身で勝手に料理を始めた。構ってもらえないのが寂しくて料理をしているルーに後ろから抱きつくと、「包丁使ってる時にくっつくな」と怒られた。ひどい。私は今傷ついているのに。友達がいのないやつだ。
手早く料理を終えたルーは、ローテーブルに皿を並べてお酒を飲み始めた。お酒の入ったルーは、「お前は本当に男を見る目がない」とケラケラ笑ったり、私が「もう死にたい」と言うと「死んじゃやだヨ」と泣いたり、「あの男、次に会ったら玉潰してやるネ」と怒ったり忙しない。そうやってひたすらお酒を飲んでいると、次第にお互い黙りこみがちになっていった。私はぼんやりと頭の中で彼との思い出を反芻していた。ルーは静かにまとめていた髪の毛を解いていた。
じわっと浮かんだ涙を、アイメイクが崩れるのも厭わずに乱雑に手の甲で拭う。彼とやり直す可能性はゼロなんだから、ウジウジしたってしょうがない。それは分かっているけど、たとえ相手がどれだけ最低なやつだろうと、浮かんでくるのは楽しかった時の思い出ばかりなのだ。
「ルー……」
返事は返ってこない。寝ちゃったかな。
「怒ってくれて、ありがとう……」
突然腕を引っ張られて体がふわりと浮いた。そこまで強い力で引っ張られたわけじゃないのに、びっくりしているうちに背もたれにしていたベッドに寝転ばされていた。
「……ルー?」
ルーがベッドに手をついて、真上から私を見下ろした。長い髪の毛がぱらっと顔にかかって、まるで別人みたいな色気をまとっている。
「そんな男のこと、忘れさせてやるヨ」
話し方まで少し荒くなっていつもとは違う。ドキッと胸が鳴って、私はルーに「酔ってるの?」と訊ねた。
ルーは何も答えずに、私の顎を掬うとキスをした。熱い舌に揉みくちゃにされて、私はルーにされるがままになっていた。
「はあっ……」
やがて唇が離れていく。目を開くと、艶やかに笑ったルーが目の前にいて、私はごくりと生唾を飲みこんだ。
▽
目が覚めると、目の前にルーの可愛らしい寝顔があった。二人とも裸のまま抱き合っているのに気づいた私は慌てて起き上がった。昨夜あったことは、記憶からも体からもなくなってはいなかった。
「まだ早いヨ……」
ルーの腕がするりと私に巻きついて、私は再びベッドに横たわった。温かい布団の中で、柔らかいルーの体とすべすべした肌の感触に触れて私は顔を真っ赤にした。
「あ、あ、あ、あぶない……」
「……何がヨ」
「……ルー、これからは私以外とお酒飲んじゃダメだよ……」
ルーは片目だけ開けると、「誰彼構わずこんなことしないネ」と呆れたように言った。
「……そ、れって……」
ドキドキして、頭の中がルーのことでいっぱいで、私はそっと布団を引き上げて顔を隠した。
「……引っ越すノ?」
「え? なんの話……?」
私が混乱したまま首を傾げると、ルーは満足そうに笑って私を抱き寄せた。
感想はこちらへ