天国までのまがり道A


グリムジョーは斬魄刀についた血を振り払ってそれを鞘に納める。あたりを見渡すが、そこに倒れているのは自分が殺した者達と、自分が殺した者達に殺されていた破面達。生きて存在しているのは自分だけだった。

「変な技使いやがって」

なんだこいつら、とグリムジョーは先程自分に襲いかかってきた集団の死体を足蹴りする。光の矢を操る集団だった。霊子を吸収される気配がしたので、長引かせる前にと鏖殺した。
先日、ハリベルが連れ去られてから何度も虚圏に侵入してきている謎の集団。先程自分が殺したのもその集団の一部だろうとグリムジョーは推察する。何を目的としてハリベルや他の破面を連れ去り、虚や破面を殺して回っているのか。
しばらく平穏だった虚圏の空気ががらりと変わっていた。

「まだうじゃうじゃいやがるな」

探査回路を全開にし、虚圏に散っている侵入者たちの居場所、霊圧を探る。場所だけ捕捉し、一度凪の元に戻ろうと思った時だった。は?とグリムジョーは耳元に手を当て、神経を集中させる。探査回路で捉えた霊圧はこれまでのものより断然大きく、それが凪のすぐそばにある。そして同時に凪の霊圧が大きく揺れているのもわかった。
グリムジョーは舌打ちをして響転で凪と別れた虚夜宮へ戻る。先程捉えた霊圧の主はその場を去っており、霊圧の残滓のみが残されていた。凪もいない。また探査回路を全開に凪の気配だけに集中して探る。動いている。凪ひとりだ。この場から生きて逃れたことはわかった。しかし、グリムジョーは無造作に落ちているその斬魄刀に目を落とし、眉間に皺を寄せた。
それは、凪の斬魄刀だった。
刃が剥き出しで、鞘はどこにも見当たらない。
全開にしたままだった探査回路が、凪の動きが止まったことを捉えた。ここからずっと先だ。あの短時間で移動したということは瞬歩を使ったのだろうが、「まだその距離動けねえだろうがあいつ」とグリムジョーは舌打ち混じりに吐き捨てた。
大戦後力が弱まった凪だったが、時間をかけ回復してきた矢先だった。全盛期の凪であれば先程まで彼女が戦っていた相手に手こずることもないし、瞬歩を乱用すればずっと遠くまで一瞬で移動できただろう。しかし、それは大戦前の話。今彼女は当時ほどの力はないのだ。
グリムジョーは凪の斬魄刀を手に取り、凪の居場所を捕捉する。そして響転を極限まで高めそこへ跳んだ。



「おかえり」

血だらけの凪は、目の前に現れたグリムジョーを見とめ、小さく笑って言った。彼女の周囲は血溜まりができていて、白の死覇装は血で赤く変色している。片目が潰れていて、涙の代わりに血が頬を伝っていた。
全力でここまで来たのだろう、珍しく肩で息をしているグリムジョーは凪を上から下まで見下ろして、口元を歪めた。

「…誰にやられた」

グリムジョーは凪に近づき、彼女の斬魄刀を渡そうとした。凪は受け取ろうと手を伸ばすが、傷が痛むのか顔を歪め、手を引っ込めた。代わりにグリムジョーの問いに簡潔に答える。

「あいつら、滅却師の集団よ。討伐隊長って奴に霊子を毟り奪られた」

身体中引きちぎられた気分よ、と凪は天を仰ぐ。それは気分ではなく文字通り、なのだけれども。血液が失われて寒さで震える凪を見て、グリムジョーは舌打ちし、自分の羽織を乱暴に凪の身体にかける。それもあっという間に凪の血で赤く染まった。グリムジョーは彼女を抱き上げ響転する。凪はその移動の速さで身体に重力がかかるのを目を閉じてこらえた。やああって動きが止まり、ゆっくり凪はグリムジョーの手から下ろされる。そこは、いつかグリムジョーと訪れた虚圏の果て。ネガル遺跡だった。虚夜宮とは反対方向、ずっと遠いそこ。

「生きて待ってろ。てめえやった奴殺してくる」
「行ってらっしゃい。眠いから早くロカ連れてきてくれたら嬉しいな」

治癒師の破面の名前を出して、凪はグリムジョーに視線をやる。表情は出さないが、その霊圧から彼が激怒しているのは手に取るようにわかる。弱くて不甲斐ない私への苛立ちなのか。それとも虚圏を荒らすあの滅却師たちに対する殺意なのか。昔であれば秒速で前者だと疑いようもなくわかっていたのに、今はどちらか正直凪も読めなかった。グリムジョーは膝を突き、凪の閉じられた右目をぬぐう。とめどなく流れる血が、グリムジョーの長い指を汚した。
目を閉じた凪は大きく息を吐いて、気絶するように眠った。眠ったのか、本当に意識を失ったのかはわからない。しかしこの出血量は、頑丈な破面ではない死神の凪にとっては致命傷だろう。よりによって霊圧、霊力、体力が回復してきた矢先に。破面でさえ殺す能力を持つ集団だ。手放しに避難させたからもう大丈夫だといえる状況ではなかった。
グリムジョーは探査回路を全開にし、遠く離れた虚夜宮付近に意識を集中させる。いつの間にか強い霊圧がいくつも出現していた。
しかし、他はどうでもいい。虚夜宮の地下に残っていた凪に手をかけた奴の霊圧のみを捕捉する。
グリムジョーは凪を一瞥した。顔色がどんどん白くなっている。あの大戦を生き残ったのだ、こんな訳の分からない奴らに自分達の居場所を脅かされる道理はない。

「急がねえとまずいかもな」

グリムジョーは独りごちて、高く跳んだ。

Next
(20220128)



back