真相
「ほんと藍染隊長は意地が悪いなァ」
椅子に腰掛けている藍染に、ギンはいつもの軽い調子で声をかけた。藍染は頬杖をついたまま、手元のカップを持ち口角を上げて鼻で笑って見せる。
「凪ちゃん、あないにしてどうするつもりです?」
部屋の奥に座り、窓から虚圏の砂漠をぼんやりと眺めている凪にはこちらの会話も聞こえているだろうに、その声は一切届いていないようだった。心ここに在らず。色の失った瞳はぼんやりと外に向けられ、もともと白かった頬はさらに色を失い、頬にいくつもの涙の跡ができてきた。目は窪み、やつれたように見える。彼女の腕は自分の腹に回されているが、ギンから見える凪のそこは昔から変わらない細いウエストのまま。
「鏡花水月、相変わらず恐ろしい能力ですわ」
凪にかけられた催眠。それは腹に藍染の子がいると思わせるもの。憎い男の子を宿してしまったという絶望と、それをむざむざ手放せない葛藤と、藍染の所有物として彼の部屋で半軟禁状態が続いているこの状況に、凪の心は完全に壊れていた。
彼女は腹に子がいると思い込んでいるし、体調すら鏡花水月は操っているのか、妊娠特有の体調不良を彼女は訴えていた。周りのものもそんな凪を見て、また腹が膨れる様子も合間って身籠っていると信じて疑っていない(実際はギンが見ているように見た目はなんら変わっていないのだが)。あまりにもリアルでそれが全て鏡花水月の催眠であることは夢にも思わない。凪本人ですらそれを見破れないのだ。周りの人間がわかるはずもない。催眠をかけられていないギンを除いては。
「より絶望した魂魄を崩玉に与えるとどうなるか実験したくてね」
「うまい嘘吐きますねぇ。こんなん、凪ちゃんとグリムジョーへの単なる嫌がらせやろ?」
フ、と藍染はため息混じりに笑う。どうやら当たりらしい。「崩玉に絶望した魂魄を与えたいのは嘘じゃないさ」と藍染は紅茶を飲みながら言う。へぇ?とギンは面白そうに続きを促した。藍染はちらりと凪は視線を向けた後、それをギンへと向ける。
「まだ仕上げは終わってないんだよ。生意気な部下を手懐けるほど面白いことはないからね」
言いながら、凪・と藍染は凪を呼ぶ。びくりと肩を震わせた凪は恐る恐る藍染の方に顔を向けた。これまでの勝ち気な彼女の姿はそこにはなかった。何かに怯え、その瞳は恐怖で彩られている。
「そろそろ生み月だね。グリムジョーが君を探しているよ」
「…」
無言で藍染を見る凪の目には覇気がない。グリムジョーという名が出た時だけ少し明るさを取り戻した気がしたが、一瞬でそれは失われたためギンの空見だったのかもしれない。
生み月、と藍染は言うが、凪の腹には何も宿っていない。この十月十日、藍染の催眠により自分は身籠もりどうしようもなくなったという支配下に置かれ続けていた。凪の心はもう限界だった。
「グリムジョーに会うことを許可するよ。行っておいで」
藍染のその言葉に、凪はゆっくりと立ち上がる。ふらふらと本当に身体が重そうな様で部屋を出ていく彼女を見て、ギンは思わず笑顔を消した。
「何させるつもりや?」
「さあ。どうなると思う?」
とても面白そうに口角を上げた藍染は、ギンに続きを促すがギンは何も言わなかった。少し空いて、ああそういえば、と藍染は再び口を開いた。
「この催眠をかけてないのは、君とグリムジョーだけなんだよ」
さあ、どうなると思う?もう一度同じ言葉を繰り返した藍染に、ギンは笑って答えてみせた。心の中では、外道が・と罵りながら。
END
(20220221)
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