言葉にせずとも


「そういえば、お前はなんでこっちの味方についたんだよ?グリムジョー」

霊王宮まで向かう道すがら、黙って座っていたら突然下方から声を投げられ、あ?と視線をそちらに投げる。黒崎が不思議そうな顔をしていて、相変わらず腑抜けた野郎だと思った。立てた片膝に腕を置きながら、誰が味方についただと?と返しながら睨んでやった。

「能天気な野郎だ。あのユーハバッハってのを野放しにしといたら虚圏が無くなんだろ。虚圏が無くなったら、どこでてめえを殺すんだよ」

虚圏の砂漠でかつての戦いを思い出しながらそう言ってやれば、そりゃそうだと黒崎も同意した。舐めた返事をしてきたらこの場で斬ってやろうかと思っていたが、それは一旦保留にすることにした。喋ることはもうない、と目を閉じようとすれば、あの…と今度は遠慮がちな声が飛んできた。片目を開けてそちらを伺えば、今度は井上織姫がこちらを見上げていた。

「グリムジョー、凪さんは?」

ぴくり、と眉が動くのを感じた。凪の名前を聞いて、ああ?と声を上げたのはほぼ反射だった。ネリエルが「織姫、凪はね」と何か言い募ろうとするので、それに被せるように「あいつは虚圏だ」と言ってやる。

「弱ぇ奴はいらねえ。だから置いてきた」

誰とも視線を合わせずに答えてやれば、そんな、と織姫が声を上げた。凪さんあんなに修行してたのに?と言うので、弱ぇままの奴連れてきても犬死にするだけだろうがと睨んでやれば、織姫はびくりと身体をすくませた。
凪に虚圏に残るように乱暴に告げてから彼女とは会っていない。寝床にも戻って来ないしどこに行ったのか知らないが、このまま拗ねでもして虚圏に残ってくれる方がこちらとしても好都合だ。力が戻り切っていない、護ることが難しい状況であいつを連れて戦えるほどこの戦いは甘くない。どんな手を使っても置いていくと決めてから、力技で屈服させたところはあるが。

「グリムジョー、凪を来させないために殴ったのよ。女の子をよ?酷いと思わない?」

ネリエルが呆れたように声を続ける。なんでてめえが知ってんだよ、と聞けば、聞いたの!と憤慨したように声を上げられた。誰から聞いたんだか、とため息をつけば、他人事みたいにして!とまた文句を言われた。

他人事なものか。
他人事なら殴ってでも置いてくるという選択肢はない。絶望したような凪の表情は今も容易に思い出せる。一緒に戦いたいと何度も口にしていた彼女のことだから、置いていくと判断されたことに対しては屈辱しかなかっただろう。それで関係が切れても仕方ないと思うくらいには凪を連れてきたくなかった。そもそも滅却師に殺されかけたあいつを再び滅却師の奴らの前に出したくなかったという思いもある。
そこは言葉にせずともわかってほしかったが、わかっていたとしても彼女は了解しないだろうし、今も虚圏のどこかでひとり怒りを抱えているだろう。それでもまた凪が死にかけるより幾分かましだ。自分がすべきことはとっとと敵を倒して虚圏に帰ること。ただそれだけ。

「あいつはひとりで黒腔は開けられねえからな。虚圏に残るしかねえ。ごちゃごちゃ言ってると先にお前らから殺すぞ」

ネリエルを睨めば、そんなに凪を連れてきたくないならちゃんと話せば良いだけでしょう?と呆れたように言ってくる。話してわかるやつなら手を上げるか、と思ったが口には出さなかった。

「凪のことだからなんとしてもこっちに来そうだけど…」

誰に言うまでもなくぽつりとネリエルが呟いた。それに対し、ハッと鼻で笑ってあしらってやる。自力で来れねえのにどうやって来るんだ。人に頼ることが嫌いなあの女が誰かに頼ってこちらに来るという手を取る気がしない。

「素直に心配だから来るな、て言えば良いのに」

その言葉に返事はせず、舌打ちだけで会話を切った。


END
(20241014)



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