今だけは過去の日々

強くなろうとした。あの人がいなくても、泣かないように。だから、頑張っていろいろな知識や技術を身につけた。情報処理や語学。CBのメンバーとしてそれなりに能力を補って、自分から敵の施設に潜入捜査をして情報収集に努めた。それも全部、アレルヤが早く帰ってこれるように。CBを復興させるために。
あの人は、捕虜になったと聞いた。アレルヤも頑張っている。だから、自分も頑張って強くならなくちゃ。泣いてなんかいられない。アレルヤが帰ってきたとき、強い女になって出迎えなくちゃいけない。だから、もう泣かないと決めた。そんな生活を繰り返して数年。ある任務で研究施設に研究員として潜入していたときだ。
捕虜となっている、アレルヤと再会したのは。


ガラス越しに、彼が拘束されている姿を見る。誰もいなくなったのを確認して、そこへ駆け寄った。監視カメラがあるかもしれないから、アレルヤの名前を呼んだり助けたりすることは出来ない。今ここで感情を抑えられなくて勝手な行動をしたら長年の努力が無駄になる。それは自分たちだけじゃなく、CBの大きな障害になってしまうのだ。なるべく不自然がないように監視カメラの死角に回りこみアレルヤを見つめる。ずっと視線を下げていたアレルヤが不意に目を上げ、そのまま瞠目した。口元は黒のマスクで覆われているから彼の言葉を口の動きで読むことは出来ない。けれど、どうしてがここに?とアレルヤが動揺しているのは手に取るようにわかった。何とかして拘束を解こうと身体を動かすアレルヤに向かって首を横に振る。
この数年で、すごく痩せた。顔色も悪い。目の下には大きな暗い陰もみえる。

「ごめんね、アレルヤ」

口の動きだけでそう伝えれば、アレルヤは一瞬目を見開き、ゆっくりと首を横に振った。
そして、ちゃんと両目を綻ばせて笑う。あのアレルヤの笑顔は、ノエルを安心させるために浮かべてくれるものだ。ノエルが泣きそうなときいつも彼はすぐに察して慰めてくれた。そのたびに優しくて穏やかな笑みを浮かべて、自分に贈ってくれていたのだ。
私より今はアレルヤの方がずっと辛いはずなのに。
それなのに、何故アレルヤは笑っていて、私は泣いているのだろうか。強くなったはずだった。もう弱い自分はいないはずだった。なのに、今なんで私はこんなにも泣いているのだろう。

「ごめん、ごめんね、アレルヤ。もうちょっとだから。もうちょっとしたら、絶対貴方を助けるから」

ガラスに掌を添わせる。無機質で冷たいガラスの冷えが伝わって、身体を震えさせた。こんなに寒いところでアレルヤはずっといたんだ。ごめんね。その言葉しか出てこない。
アレルヤは、ただこちらを見つめている。彼の言葉は読み取れないけど、大丈夫だから・と言ってくれている、気がする。その優しい目が、そう言っている気がする。こんな時でもアレルヤは強い。私はただ、泣くだけしか出来ない。無力な自分。どんなに知識をつけても。能力を磨いても。仕事が出来るようになっても。ちっとも強くなんかなっていない。それより、前よりずっとずっと弱くなった気がした。


「もうちょっとだけ待ってて。もうちょっとだけ頑張って」

アレルヤに聞こえるはずはないけれど、小さくそう言った。アレルヤは、小さく、本当に小さく頷く。それを見届けて、部屋を出た。
絶対に優しいあの人を助け出す。この命を棄ててでも。本気で、そう思った。


END
(20080815)


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