隣で眠るノエルを起こさないようにベッドを抜け出し、床に落ちている衣服を拾って身に纏う。本当は朝までノエルと一緒に寝ていたいけれど、前回のミッションの報告書を書かなければならないのでそれは無理なはなし。
それにまたいつ急なミッションが入るか分からないので、おちおち気を抜いていられない。なるべく音を立てないようにデスクの上のPCを起動させた。少し大きな起動音がしたのでドキッとしたが、ベッドの方から絶え間なく聞こえる小さな寝息が、ノエルがまだ夢の中にいることを教えてくれる。華奢な肩が外気に晒されて身体が冷えたりしたら大変だから(風邪を引いてしまう)、そっとシーツをそこまで持ち上げた。
穏やかなノエルの寝顔は自分の心を落ち着かせてくれる効果を持っている。起こさないようひとつ髪を撫でて、アレルヤはPCの前に座った。
キーボードを操り報告書を作成していれば、目の前が霞掛かったように揺らいだので目頭を押さえてそれがおさまるのを待つ。最近、よくある。きっと疲れ目のせいだ。今のように何てことない時に起こるのならいいが、戦闘中にこうなったら困る。困るというより…命取りになる。やっぱり疲れてるのかな・とひとつ溜息を吐いてチェアの背もたれに体重を掛けた。そのとき、「アレルヤ?」と寝ていたはずのノエルの声が耳に届いた。
ベッドの方を振り向けば、目を擦りながらこちらを見ているノエルと目が合う。
「ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫。…何してるの?報告書?」
「うん。次のミッションも近いし、まとめておこうかな、て」
シーツを胸元に手繰り寄せながら身体を起こしたノエルは、まだ少し眠そうな表情でこちらを見ている。そして一拍後、シーツ一枚で何も纏っていない自分の姿に気づき、慌てて首筋までシーツで覆った。アレルヤもまたそれに気づいて顔をPCへと向ける。行為中はライトを消しているしいちいちそんなこと気にならないのに、いざこういう場面になると何故か照れてしまう。これに関してはいつか慣れが生じるものなのか、本当に疑問だ。
「アレルヤ、最近疲れてない?」
いそいそと着替え始めたノエルが、ふと思い出したようにアレルヤに問う。アレルヤは視線を正面のPCモニターに向けたまま、ノエルの方を見ずに「ちょっとね」と正直に答えた。こういう時に嘘をついてごまかしても相手にはすぐにバレてしまう。なんせ彼女はCBの衛生管理者であり、マイスターやクルーたちの体調を管理する役職についているのだから。最近は暇さえあればドクターモレノのところで医療についても学んでいるらしい。そんな彼女に隠し事なんて到底無理なこと。
「ならこんなことしないですぐに寝たらよかったのに…」
服を羽織る音の後ろで独り言のようにノエルがそう言う。彼女が言わんとしていることを理解して、アレルヤは苦笑した。それは無理な相談だな・と返せば、その分睡眠が取れるのに、とノエルが溜息交じりに呟いた。
「睡眠取れなくても、ノエルと一緒にいれるときが一番幸せなときだから。それは譲れないな」
素直に言ってみたのにその返事はない。無言のままなノエルをちらりと窺えば、服を羽織ってそのままベッドに入ってしまっていた。顔をこちらに向けずに壁側に向けている。あれは、ノエルの照れ隠し。
不意に「アレルヤは、幸せ?」とノエルが問う。一瞬虚を付かれたが、アレルヤは「ノエルがいたら幸せだよ」と答えた。なら良かった・と小さく呟いた彼女の華奢な背を見つめてアレルヤは笑う。僕は今、とても幸せ。でも、君はどうなのかな?そんなこと聞いたら、彼女は怒る?
「ノエルは、幸せ?」
「…アレルヤと同じ」
ノエルは肩越しにこちらを見て、小さく笑いながら言い切った。なら良かった・と、彼女と同じように言葉を返して、残り数行になった報告書を仕上げて保存する。推敲もそこそこにPCをオフにして席を立った。そしてまたベッドに戻る。この小さな身体を抱きしめて眠ること。それが、今一番幸せな瞬間。
END
(20080821)