そりゃあ、アレルヤにだって色々あるとは思うよ?この四年間は本当に大変だっただろうし、私なんかには分からないことだってたくさんあったと思う。でも、でもね、アレルヤ。アレルヤの辛さと比べたらたいしたことないかもしれないけれど、私もずっと待ってたんだよ?辛かったんだよ?だから今、アレルヤと一緒にいることが本当に幸せだと思ってるのに。
…マリーて誰よ。
まどろみの中、アレルヤは隣にいるはずのぬくもりが腕の中にないことに気づいて目を開けた。いつもなら彼女より自分の方が先に目を覚ます。だから彼女が起きるまでその幸せそうな寝顔を眺めるのがアレルヤにとって楽しみになっていたのだが。今日はどうやら違うようだ。あれ?と首を傾げながら視線を上げれば、ノエルがベッドの傍で衣服を身に着けているところだった。枕元の時計を見ても起きるにはまだ随分と早い時間。
「今日は早いんだね」
おはよう、と自分も身体を起こしながら言ってみれば、ノエルはその細い肩越しにアレルヤを一瞥しただけ。しかも、その視線の冷たいこと。虚を付かれたアレルヤに、ノエルは「問題です」といきなり切り出した。
「私の名前はなんでしょう」
「え?」
「私がニール兄から貰った名前はマリーじゃありません」
言い切って、呆然と身動きひとつしないアレルヤから視線を外したノエルは着替えを続行させる。
ノエルの口からマリーという名前が出たことに気を取られてしまったが、重要なのはそんなことじゃあない。ノエルは、超兵ソーマ・ピーリスのことは知っていても、彼女がマリーであるということを話したこともなければマリーという名前を彼女の前で零したこともない、はず。じゃあ何故彼女がそんなことを言い出したのか。
「あ、あの、ノエル?」
勿論忘れるわけがない彼女の名前を呼んでみれば、ピクリと彼女が反応する。
「マリーって、君、その、どこで・・・?」
「今日の夢はマリーさんと一緒だったんでしょう?」
もう振り向きさえもしないノエルのその一言で、アレルヤは何かを悟った。まさか、寝言…!?
違うんだ!とベッドから飛び出そうとすれば、「ちゃんと服、着てください」と余所余所しい敬語でぴしゃりと言い止められた。そういえば先ほどからノエルはアレルヤに対して敬語しか使っていない。これは、相当まずい。
「あのね、ノエル。話を、」
「聞きました。マリーて誰?て質問にちゃんと答えてくれたじゃない」
知らない!誰が答えたって!?記憶のないその問答に「な、何を…?」と冷や汗が滲むのを感じながら聞いてみれば、ノエルは嘗てないほどの冷たい視線でアレルヤを射抜いて言った。
「僕の…て、眠りながら言えるくらいですもの。マリーさんが聞いたら本当に喜ぶでしょうね」
最悪だ。着替えを終えてそのまま部屋を出て行こうとするノエルの手を掴んで「違うんだ!」と否定しても、冷たくその腕を払いのけられるだけだった。ああ、駄目だ。怒ってる。今までにないほど怒ってる。だって、こんなに怖いノエル、僕は知らない。
「私のところじゃなくて、マリーさんのところに行けば?」
ノエルはそう冷たく言い捨てて部屋から出て行ってしまった。部屋から出る寸前にアレルヤに向けた視線は本当に冷たく。いや、あれは冷たいなんていうもんじゃあない。ほとんど軽蔑に近いものだ。ノエルに払われた腕が所在なさげに宙に浮いていた。
END
(20080907)
「ハレルヤ!ハレルヤ!!ノエルに嫌われた!僕、僕はこれからどうしたら・・・!!」