ノエルのCBでの役職は、衛生管理者。マイスターやクルーの生活面でのサポートに重きをおく。その中心が食事であったり日用品や備品の整理や配給、管理などが仕事。パイロットやオペレーターなどといった派手さはなくどちらかといえば地味なジャンルに分類されるが、人手の少ないトレミー内ではある意味重要な仕事を担っていた。それは四年間変わっていないし、逆に長い時間をかけて情報処理やプログラミングなど、衛生管理以外の分野でもそれなりに身につけたスキルもある。だが本職の彼らに比べるとどうしても付け焼き刃感が否めなくて劣ってしまうのは仕方がないことだろうか。それでもサポート程度ならこなせるようになったことは、ティエリアでさえ良くやったと認めてくれた。もっと何か出来ることを探さないと。そう思いながらノエルは備品管理のため倉庫で作業をしていた。滅多に地上に降りられないため、日用品などは不定期に膨大な量を搬入する。不定期であるためその管理は大切だ。いきなり物資が尽きてしまったら、それこそ大変なことになる。
物資のリストを手に棚の上段に置かれた箱を取ろうとするが、うまくいかない。こんな高いところに運んだのは誰だ。身長の高いラッセ辺りだろうか。…取れない。重力が働いている部屋なので飛んで浮かぶことも不可能だ。どうするものか、とひとつ溜息をついたとき、長い手が顔の横から伸びてきた。
「これでいい?」
「アレルヤ。ありがとう、助かったよ」
いつの間にか倉庫に入って来ていたアレルヤは、物資の入った箱を手にどういたしまして・と小さく笑う。受け取ろうとするノエルに「僕が運ぶよ」と告げる。
「結構重いから。ノエルには持たせられない」
「少しくらい平気なのに」
相変わらず過保護だ、とノエルは困ったように笑う。昔からアレルヤは自分に対して過保護だと思う。それも行き過ぎたくらい。大事にしてくれるのは嬉しいけれど、少しくらい平気なのにな・と思わずにはいられない。四年間離れ離れであったが、先日帰還してからもずっとアレルヤの態度は昔と変わらない。それにとても安心したし、記憶よりもずっと大人っぽくなっていた彼にももう慣れた(はじめは少しだけ違和感があったけれど、もう大丈夫)。
不意にアレルヤがノエルの髪に手を伸ばす。柔らかく掴もうとしたそれはさらりと揺れてアレルヤの手から滑り落ちた。
どうしたの?と首を傾げたノエルに、アレルヤは少し考えるように笑って「髪、切っちゃったんだね」と寂しそうに言った。
髪は、切った。四年前は肩よりもずっと長かったのだが、少し前にばっさり肩につくくらいまでに切ってしまった。それも衝動的だったので毛先はバラバラだし場所によっては髪の長さも随分違っていたりする。自分で切ったの?と尋ねてくるアレルヤに、隠すことなくうんとうなづいた。
「剃刀って結構切れるんだね。シャワールームにそれしかなかったからやってみたんだけど、案外楽に切れたよ」
「ちょっと待って。剃刀は髪を切るためにあるんじゃないと思うんだけど」
「ならシャワールームも髪を切る場所じゃないかもね」
くすくすと笑ってみれば、どうしてまた…とアレルヤは今度こそ笑みを消して眉を顰めた。 貴方が帰ってこないからだよ・と答えたかったが、それは言ってはいけない気がしてすんでのところで飲み込んだ。なんでだろうね・と笑って見せれば、「僕が聞きたいよ」とアレルヤは溜息を吐いた。
「怪我がなくて良かったけど。今度髪を切るときは言ってね、僕が切ってあげる」
「アレルヤが?切れるの?」
「多分ね。自分で切るより安全でしょ?剃刀じゃなくてちゃんとハサミを使うし」
そっか・と答えれば、これはどこに持って行くの?とアレルヤが抱えたままの箱を示しながら言う。こっち・と倉庫の外を指してそのままふたりで歩いて向かう。
こうして並んで歩くことを、ずっと願っていた。もう一度並んで歩きたいと、何度も思った。今は当たり前のようにそうしていられる。でもあの四年間を思うと、これも当たり前だと思ってはいけない気がした。それでも、伸ばされた手の体温は本物。今くらいはこの温かさに寄りかかっても良いだろう。
END
(20081013)
「手、繋いでても平気?荷物重くない?」
「全然大丈夫」