暗闇の中に蹲る

この感情を、私は知らない。ぐるぐると自分の中で渦になっていくそれは、排水溝となるべくところが詰まって流れ出ていかない。だからまたそれは溜まって積もって、私の中で毒を発する。どうやったらアレルヤの気を引けるのかとか、どうやったらあの子じゃなくて私を見てくれるのとか。今までは私が一番だったんだ。なのにアレルヤがあの子を連れて帰ってきてから、マリー、マリーと、あの子を心配して何度もその名前を呼んでいる。
…ねえ、最後に私の名前を呼んでくれたのは、いつ?

「アレルヤ、あのね、」
「ごめん。マリーの様子を見に行かないといけないんだ。急ぐ?」
「…ううん、大丈夫」

ごめんね、ともう一度彼は言って“マリー”がいる部屋へと向かう。前は何度も何度も振り返って手を振ってくれたのに、今はもう一度も振り返らない。ああ、また私の中で毒が生まれる。どこで吐き出せばいいのだろう。自分の身体じゃないようなふわふわした感覚が脳内を満たし、どうしたらアレルヤがこっちを向いてくれるかを考える。医務室で一度見た、あの子のことを思い出した。怪我、してた。…怪我、したら、アレルヤはこっちを向いてくれるだろうか。
そう思って部屋にあったカッターで手首を切ってみる。不思議と痛みはない。けれどそれに比例せず血はどばっと流れ出た。赤い色。それを隠すように白い包帯で手首をぐるぐる巻きにする。わざと制服の袖をまくってそれが目立つようにした。なのにアレルヤは気づかない。前は私が気づいていないようなちょっとしたかすり傷にも気づいてくれていたのに。…手首だから分からなかったのかな?
そう思って、次は額に傷をつくる。今度は切り傷じゃなくて痣になるくらい壁にぶつけてみた。それも、彼は気づかない。…前髪に隠れてしまったのかしら。
じゃあ今度は何度も繋いでくれた掌を。料理をするときにわざとやけどをする。ひりひりした。それでも彼は気づかない。

だから何度も何度もいろんな場所に傷を作った。アレルヤが気づいてくれるまでずっと。
そうしていたらアレルヤよりも先に他のみんなが気づき出す。なんで、他の人が気づいてくれるのにアレルヤが気づかないのだろう。いつの間にか傷だらけになった掌を目の前で翳して考える。ああ、そっか。アレルヤはもう私を見ていない。じゃあ、どうやったらもう一度私を見てくれるのだろう。私が超兵だったら良いの?そしたらあなたとずっと一緒にいられる?


・・・


「ごめん、ごめんね。ノエル…」

唐突に響いたその懐かしい声に、ノエルは目を開けようとするが無理だった。ただ声だけが聞こえる。私は何をしたのだろう。アレルヤの気を引こうと、傷を作って気づいてもらおうとした。けれど全部駄目で、最後…何をしたんだろう。記憶がない。

「僕のせいで、ノエルの目が…」

アレルヤの泣きそうな声が聞こえる。目?私は目を失ったの?全然覚えていない。それでも、貴方はここにいる。私の隣にいてくれる。名前を呼んでくれる。なら、目なんて必要ない。貴方がいてくれるのなら、名前を呼んでくれるのなら、なんでもあげる。“マリー”に勝てるのなら、なにもいらない。



END
(20081109)


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