いつの間にか私の世界は、貴方で埋め尽くされていました
アリオスをロストしたまま戦線離脱して、もう数日が経つ。アリオスがアヘッドと共に墜落していくのをこの目で見た。けれど、爆発はしていない。きっとアレルヤは生きている。それなのに彼は帰ってこないし連絡すらない。さらに数日後、ティエリアの様子がおかしい。アレルヤのことが何か分かったのかを尋ねると、何も知らないと答える。…嘘だ。今のティエリアは嘘がつけない。目を逸らしながら答えたティエリアを前に「帰って来れない理由が出来たんだね」と呟いた。ティエリアは否定しない。
あの子、かな。
捕虜になっていたアレルヤが帰って来たとき、全部彼本人から聞いた。超人機関にいたときに出会ったマリーという少女のこと。その彼女が別人格を植え付けられ、アロウズに所属しているということ。アリオスと堕ちていったアヘッドをアレルヤは攻撃出来ずにいた。きっと、あの子と一緒にアレルヤはいる。だから、帰ってこない。私のところには、帰ってこない。
そう思うと、もうアレルヤのことを忘れないといけないという衝動に襲われる。アレルヤはもう帰ってこないのだから、彼を思い出さないようにしなければならない。わずかな時を一緒に過ごした部屋に戻り、アレルヤの私物を処分する。あの人はもう帰ってこないのだから、置いていても仕方がない。ほとんど彼の私物はないに等しかったのですぐにそれらは片付いた。それでも何故か落ち着かない。どうして?彼のものは全部処分した。彼のにおいがついたものは全部、全部。けれど、まだ、ある。
ただ一心不乱に“アレルヤ”が残るものを探し出す。ふと顔を上げたときに自分の姿が鏡に映った。耳元に光るピアス。そうだ、これはアレルヤがくれたものだ。
「…外さないと」
小さく呟き、それを外そうとするがうまくいかない。早くアレルヤを消さないと!と急き立てられるが、焦りも伴って手が滑るばかり。もう面倒だ。ぶち、と鈍い音と共に小さな衝撃と熱さが耳に宿る。掌に乗るピアスは半分赤く染まっている。
「もう片方も…」
左の耳に手を伸ばし、同じようにそれを引き千切った。血がついたままのそれらをダストに放り投げ、また部屋を徘徊する。ピアスを取ったのに落ち着かない。耳が熱い。ぼたぼたと熱いような冷たいような水滴が首に伝って肩を濡らす。ああ、この服もだ。制服の中に着ているインナー。これも地上に降りたアレルヤと一緒に買い物したときに購入したのだった。白いインナーを剥ぎ取る。下着姿になると、空調が効いている室内とはいえ寒かった。寒い、というより悪寒がする。
「後は?後、アレルヤが関係してるもの…」
何度も一緒に寝たベッドのシーツを切り裂いて捨てる。アレルヤが使っていたチェアを空室へ移動させた。首筋に残るキスマークが疎ましくて、何度も何度も擦って消そうとする。うまく消えないので、そこを掻き毟って傷で上書きした。
ようやく空っぽになった部屋を見渡す。物はほとんどなくなった。けれど、まだ“アレルヤ”は残っている。どこ?まだ落ち着かないの。まだあの人がいる気がするの。呆然と冷たい床に座り込んだ私を鏡が沈黙を貫いたまま映していた。鏡に映っているのは、醜い女。血がこべりついた頬。傷だらけの首筋。痩せた身体。…ああ、そうか。
「“ノエル”も、“アレルヤ”のものだった」
彼の選んだ服を脱いでも、彼がくれたピアスを外しても、彼のつけた痕を消しても、それは全部無駄だった。自分自身がアレルヤのもの。どれだけアレルヤのものを捨てても落ち着かないはずだ。自分自身がアレルヤの世界になってしまっていた。どうしたら私の中からアレルヤを消せるだろう。身体中の血液を抜き取れば?あの人の姿が焼きつく目をくり抜けば?何度も触れられた肌を焼ききれば?
何を試してもアレルヤは消えなかった。私の中から彼を消すということが不可能なまでに、私は彼に依存してしまっていた。
END
(20081113)
ただ一緒に生きたかっただけ。
ただ一緒に逝きたかっただけ。