アレルヤとふたり、敵の動向を探るためにあるパーティに潜入することになった。本当なら顔が割れていないひとりで乗り込んでも良かったのだが、カップルを装って行った方が自然だし安全だというアレルヤの提案でそうなった。礼服などほとんど着たことがないので、どんなものを着ていったらいいのかすら分からない。とりあえずトレミーの女性陣から数種類の礼服を借りて、部屋で試着する。潜入捜査なのだから目立たないに越したことはない。不自然じゃない程度に、けれど目立ちすぎることのない服を選んで試着を繰り返す。
「これは?」
「肌が見えすぎてるよ。ショールで隠すにしても、それは見えすぎ」
「じゃあこっちは?」
「背中が開き過ぎ。いただけないな」
アレルヤは首を横に振って溜息を吐く。恋人とはいえ仮にも女性が着替えているのに、堂々と、何のためらいもなくベッドに座ってそれを見ているのはどういうことか。それにいちいちちょっとしたことを取り上げてはドレスたちを却下していく。
六着目を却下されて、ノエルもさすがにむっとする。アレルヤがノエルのドレスを悉く却下していく主な理由は、肌が見えすぎだとか、きわどいとか、そういうこと。スメラギから借りたものがほとんどなので、多少の肌の露出は覚悟している。けれどここまで却下され続けたら着るものがなくなってしまう。
「背中くらい大丈夫だよ。ショールもあるし」
「髪が長かったらそれでも良かったけど…ショールだけじゃ隠し切れないよ」
「見せるために作られたドレスじゃない。他のも似たようなものばかりだよ?」
ほら、と借りてきたドレスをアレルヤに見せると、彼は再び溜息を吐く。自分はさっさとスーツに着替えて準備万端だからって、そこまで神経質にならなくてもいいと思う。ノエルは自分が溜息を吐きたいのを我慢して、ざっと目を通していた礼服の中から一番露出の少ないものを手に取った。
「これにする。借りてきた中で一番露出が少ないし、これならいいでしょう?」
有無を言わせぬままに着替えて彼の前に立つ。首元は大きく開いているが、マーメードタイプの落ち着いたドレスだ。ショールがあれば開いた背中も隠れるし、文句はないはず。暫くノエルを見ていたアレルヤも今までとは表情が違う。なんとか納得したかな?
「…うん、それならまだ大丈夫」
「まだって何?似合ってないって言うの?」
アレルヤの曖昧な言い回しに何となくカチンときて、心外だと表情に思いっきり出して文句をつける。すると彼は少し困ったように首を傾げて「ノエルがいいならいいんだけど、」と苦笑する。…どういう意味?そう訝しんだら表情にも出ていたようで、アレルヤがすぐに取り繕うように立ち上がる。
「似合ってないなんて言ってないよ。一番似合ってる。…時間もないし、そろそろ行こうか」
そう言って手を差し伸べてくれるのを断るわけにもいかず、時計を確かめたらいつの間にか時間ギリギリになっていたのでもう考えるのをやめた。急いで会場に向かうための車に乗り込み、アレルヤと並んで座った。後は平常心で動向を探るだけ。久々の潜入捜査に緊張した心を落ち着かせようと深呼吸をしたところで隣のアレルヤが小さく言う。
「髪がもう少し長かったら隠れてたんだろうけどね」
…なんのこと?と尋ねるように彼を見上げれば、アレルヤは苦笑して自分の首を指差した。首?
なんとなく、嫌な予感がする。
彼に預けていたポーチの中からコンパクトを取り出して鏡でそこを確認する。彼が示したそこには明らかにそれだとわかる鬱血痕が。文字通り全身から血の気が引いた。
「…信じられない。今日ドレス着る・て分かっててどうしてつけるの?」
「僕にとっても予定外だよ。でもまあ、虫除けにもなるし丁度いいかな」
アレルヤが言い切ると同時に会場へと到着した車が止まる。にっこり笑ってエスコートのため手を伸ばす彼に笑いかける力はない。本当、調子が良いんだから!
ここで着替えるわけにもいかないし、到着したということはもう任務は始まってしまった。文句も言えない。ノエルはひとつ、大きく息を吐き出してアレルヤの手を取る。車から降りた瞬間、ハイヒールで彼の足を踏むのは忘れなかった。
END
(20081123)