嘘は箱に詰めて

もう帰る場所などないと思っていた。けれど、あの場所以外行くところが思いつかなくて、どの面下げて帰っていいのか分からないままに数ヶ月ぶりにCBへと戻る。
全員が歓迎などしてくれるはずはないと思っていたが、案の定彼らは自分の姿を見た途端に表情を歪ました。当然だ。太陽炉を搭載したままのガンダムごと行方をくらましていたのだから、この間彼らがどれだけ苦労したか想像もつく。せっかく助けてもらったのにすぐにいなくなって、迷惑も掛けた。門前払いをされても仕方がないと思っていたが、きっとノエルが助けてくれるとどこか甘えた自分がいた。
その時点で、僕は間違っていたのに。ノエルは強い子だと思いこんでいた。脆さも十分熟知していたはずなのに、甘えていたんだ。


ティエリアと刹那に引っ叩かれて、奥の部屋へと向かう。どこを探してもノエルがいない。彼女の居場所を聞けば、誰もが目を逸らす。
ノエルに何かあったのだろうか。胸騒ぎがする。何故か自然と足はメディカルルームへ向いていて、辿り着けば部屋の前でロックオンと鉢合わせた。

「ロックオン」
「これは兄さんの分な」

そう言った瞬間、ロックオンはアレルヤの右頬を思いっきり殴りつけた。平手ではなく、拳。容赦のないその衝撃によろめいたアレルヤを気遣う様子を一切見せることなく、彼は「で、これは俺の分」と今度は反対の頬を拳を振りかぶって殴った。わけが分からないまま呆然と殴られた頬を押さえながら彼を見れば、ただ憮然とロックオンは言葉を吐き出す。

「良かったな。兄さんがいたら、お前絶対殺されてたぜ」
「…どういうこと?」
「お前がいなくなったせいで、あいつは自殺未遂を何度も繰り返した」

誰が・とロックオンは言わなかった。けれど、それが誰を指しているのかはすぐに分かる。クルーたちのあの反応。全て合点がいった。

「まさか、ノエルが?!」
「他に誰がいるよ。…よくおめおめと帰ってこれたな。他の女のところ行ってたんだって?良いご身分だよなあ」

ロックオンを押しのけてメディカルルームへと入ろうとするが、彼はそれをさせてくれなかった。「誰が会わせてやるなんて言ったよ」と、頑としてそこを動こうとしない。

「お前はノエルを放って別の女のところに行った。その女がお前にとってどんな存在だったとしても、だ」
「、彼女は、…救ってあげないといけない存在だったんだ」
「それはてめえの自己満足だろ」

そいつがお前にいつ助けてくれと言った。そいつのところにお前が行くことで、その女は何も捨てずにいられたか?…別にそいつは、お前なんて必要としていなかった。そうだろ?

言い連ねられたロックオンの言葉に反論する余地はどこにもない。確かに、そうだ。記憶を失った彼女を救うために自分は全てを捨てた。ノエルに何も言わずに出て行った。その自分勝手な行動でどれだけ彼女を傷つけるのかくらい、分かっていたはずだった。それでも、きっと彼女は信じて待っていてくれると、そう思っていた。

「ずっとてめえのこと待って傍にいた女を捨てて、てめえのこと覚えてないような女を救いに行くことが本当に正しいことなのか?ノエルが泣くくらいですむと、本当に思ってたのか?」

否定、出来ない。ずっと黙っているアレルヤにロックオンは苛々と口調を荒げる。「何で兄さんはこんな奴にノエルを任せたんだよ」と前髪をかきむしった。舌打ちをして、そのままアレルヤに手にしていたものを突きつける。アレルヤが訝しみながら受け取ったそれは、いつか自分が彼女に贈ったリング。その意味を悟ってアレルヤはロックオンを反射的に見た。

「勘違いすんなよ。あいつがダストに捨ててたものを俺が勝手に拾っただけだ。てめえで処分しやがれ」

そう言い捨ててロックオンはその場から離れる。手の中にある冷たいリング。持ち主を失ったリング。これをもう一度彼女に渡せば、彼女は受け取ってくれるだろうか。それよりも、彼女は自分と会ってくれるだろうか。言いようのない不安と罪悪感に襲われる。扉一枚越しにいるはずのノエルに、今すぐ会いたかった。会って、許しを乞いたい。けれど、今の自分にそんなことできる資格などない。ただ、その場に立ち竦むしかできなかった。


END
(20090105)


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