きみの光を拾いにいこうか

自分の両親と妹、そして妹分の両親が眠る墓に訪れるときには、必ずと言っていいほど雨が降っている。雨が好きというわけではない。むしろ妹分など、肌寒いし寂しいから嫌いですと断言していた。自分はそれほど天気に関して好き嫌いはないが、彼女が晴れていてほしいと思うのならそう願うまでだ。
喪服と色を合わせた黒い傘を少しずらして前方に見えた自分の両親と妹の墓に視線を向ける。するとその墓前に白い何かがあるのを視界が捉えた。少しだけ、ほんの少しだけ前へと運ぶ足を速めてみる。そして白い何かが墓前に添えられた花であるとはっきり視認できるようになったとき、別の何かが墓の後ろに在るのが見えた。
それが見えると同時に見知った気配も感じて。訝しみながら先ほどよりももっと足早に。そしてその気配に確信が持てたと同時にロックオンは駆け出した。スーツに泥が跳ねて汚れるが、そんなことどうでもいい。素早く墓の後ろを覗き込めば、小さく膝を抱えている存在が確かにそこにあった。

「お前何やってんだよ、傘も差さねえで」

反射的に傘を彼女の頭上に差し出し、墓の後ろへと回って彼女の正面にしゃがみ込んだ。
傘によってずっと彼女に降りかかっていた雨が遮断される。それに気づいたのか、ノエルはのろのろと顔を上げた。そしていつの間にか目の前にいたニールの姿を見とめ、その緑の瞳を大きく見開いた。

久しぶりにミッションの予定がなく、ふたりで地上に降りていた。ノエルは今朝どこか出かけるところがあるとか言っていたが。まさかここだったとは。
ニールは自分のスーツのジャケットを脱いで、ノエルの頭からそれを被せた。ジャケットを脱いだため、ワイシャツに直接雨が当たり背中がすぐさま濡れて冷たくなった。

「…ニール兄」

久しぶりに呼ばれた本名に、ロックオンは少し目を開く。だがすぐそれも消えて、肩をすくめて小さく笑った。

「今日はニールって呼んでくれるんだな」
「…ロックオン・ストラトスじゃなくてニール・ディランディとして来たんですよね?」

だからニールって呼びました。いけませんか?と、首を傾げながら問うてくるノエルに、いいやとニールは首を横に振る。そして、わざと笑みを消したニールは、濡れて前髪がはりついたノエルの額にひとつデコピンを喰らわせた。その衝撃に小さく顔を顰めたノエルをまっすぐ見据え、ニールは口調を厳しくして言い放つ。

「で?お前はこんな所で傘もささずに何やってんだ。兄ちゃんがわかるようにしっかり説明しろ」

雨に濡れるのも構わず膝を抱えてこんなところに座り込んでいたのだ。風邪をひいてもおかしくない。もう小さな子どもではないのだから、それくらい理解も出来ているはずだ。いつもなら分別があり無謀なことはしないノエルのこの行動。まず、おとなしくノエルがジャケットを被せられていることからして何かがおかしいのは分かっている(いつもなら絶対「ニール兄が濡れちゃいます!」と断固拒否するはずだ)。

「…ちょっとホームシックになっただけです」
「そりゃ悪いとは言わねえさ。だが何でうちの墓の後ろで膝抱えてんだ?雨だって降ってんだし、風邪引くだろ?」
「今日はディランディ家へのホームシックだったんです」
「ああそういうこと」
「はい、ついでにうちへのホームシックは半年前になってます」
「半年前って…そういやどっか行ってたな。つーことは前のホームシックもここで膝抱えてたってわけか」
「そういうことです」

雨に濡れて?とニールがすかさず聞けば、そういえばあの時も雨が降っていましたとノエルは答えた。ニールは大きく溜息を吐いた。

「なあ。ホームシックになるなとは言わねえが、せめて雨は避けろ。お前が風邪でも引いたら兄ちゃん気が気じゃねえよ」

ごしごしとジャケットで彼女の濡れた髪を拭いてやれば、タオルと違ったその感触が痛かったのか、ノエルは小さく顔を顰めた。澄んだエメラルドの色を持つ瞳は、少しだけ赤い。泣いてたなと、ニールは黙ってそのまま彼女の髪を拭き続ける。

「…心配、しましたか?」

か細い、いつもの彼女からは考えられないほど弱々しい声がする。それに、当たり前だろとニールは苦笑交じりに返し、動かし続けていた手を止めて、彼女としっかり視線を合わせて言った。

「お前に何かあったら兄ちゃんは生きていけねえよ。それくらい、ノエルにだって分かるだろう?」

少し寂しげな笑みを浮かべるニールをただ黙って見ていたノエルは、暫しの後小さく頷いた。両親達をテロで亡くして十年、ずっとふたりで生きてきた。十年間ずっと一緒にいられたわけではないけれど、幼かった自分を守ってくれていたのは、まだ子どもだった彼で。この人が、ニールがいなければ今ここに自分はいない。

「私だって、ニール兄がいないと生きていけません」

俯きながら言われたその言葉に、ニールは小さく笑んでノエルの頭を撫でる。小さい頃何度も何度もしてあげたように。あの頃はまだ小さな自分の手で懸命にノエルの小さな頭を撫でていた。今はもうその手は大きくなり、そして彼女の頭はあの頃より成長したけれどまだ小さいまま。嬉しいこと言ってくれるなと笑うニールに、ノエルは、心配かけてごめんなさいと小さく謝罪の言葉を述べる。よしよしと頭を撫でながら、小さく蹲っている彼女をもう一度見つめる。
生きる目的も、環境も、名前も、姿も、日々変わっていく。けれど、この関係だけはずっと変わらない(変わらなくて、いい)。


END
(20080416)


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