雨が降っていた。家族の命日…墓参りの日は、なぜか決まっていつも雨だ。CBに入ってからは任務などで毎年決まってこの日に墓を訪れることが難しくなっていたが、今年はニールもノエルも都合が合い二人で地球に降りて墓参りを済ませることができた。年に一度来られれば良い家族の墓は、いつ訪れても綺麗に整えられている。それはニールの家族だけでなく、ノエルの家族の墓も同じ。誰がそうしてくれているのか、それは考えなくても分かる。もうずっと会っていないあの人だ。
「ライル兄、痩せました?」
「あー…だな。でもあいつ、料理は出来るからちゃんと食ってるとは思うぜ?」
「ニール兄とは違って、ですか?」
「こら」
軽く頭を小突かれ、ノエルは「痛いです」と一人ごちる。だがニールは「お前が悪い」と笑って相手にしなかった。そしてノエルに向けていた視線を家族の墓の方向へと移す。朝、墓参りを済ませ帰ろうとしたところでニールが待ったを掛けた。墓地から少し離れた森。その木の陰でふたり雨を避けながら、あの人が来るのを待った。立場的に会うことは出来ない。だから、こうやってこそこそ彼の様子を覗うのだ。ちゃんと元気でしているか。それは他のものはわからなくともニールには分かる。何でそんなこと分かるんですか?とノエルが聞いても、ニールはただ「双子だからかな」と曖昧に笑うだけだった。でも、その言葉の根拠は十分過ぎる力を持っていて。ノエルは隣にいるニールを見て、墓地にいるライルを見る。離れてからもう数年経っているのに、何故こうも同じなのだろう。声は遠いから聞こえない。けれど、昔からその声音も口調も、ふたりはそっくりだ。勿論顔も姿も同じ。擦り合わせたわけでもないのに、髪型まで同じとはどういうことだろう。テレパシー?と思ってしまう。
「食べてるのに痩せるって、仕事が忙しいのかな?」
「かもなあ。あいつは妥協を知らないから」
「それはニール兄もです。同じです」
ノエルが即座に断言すれば、ニールは声を上げて笑う。だがすぐに口を手で覆い、危な…と呟いた。隠れて見ているのだから静かにしていなければならない。彼に気づかれてしまう。むしろライルは勘がいい。今だって墓前に置かれた花を見て、何か察しているに違いない。
「…もう大丈夫ですよ。ライル兄、帰るみたいです」
ライルが花を供えて墓を去る。その後ろ姿を見送り、ニールは大きく息を吐いた。きっと朝から緊張していたのだろう。ノエルも緊張していなかったわけではないが、ひとり残してきた兄弟を遠目から観察するのはニールにとって様々な感情や衝動が生まれていたはず。肩の力を抜いて背伸びをひとつ。そして小さくなってまもなく見えなくなるライルの背を見ながら、微笑を浮かべながらニールは言った。
「まあ、あいつは大丈夫だろ。俺より強い」
「ニール兄より?」
「ああ。でも、…ノエル、あいつが崩れそうなときは頼むな」
ノエルに視線を向けることなく、ニールはただ言い切った。その言葉にノエルは首を傾げながら尋ね返した。
「ライル兄はニール兄より強いのに?」
「強いから脆いんだよ、あいつは。俺よりぶれやすいし、崩れやすい」
「…分かりました。でも、そのときはニール兄がいるから大丈夫でしょう?」
ノエルが首を傾げながら言えば、やっと視線をノエルへと戻したニールがきょとんと彼女を見つめる。そしてノエルの頭に手を置いて、そうだな・と小さく笑った。
でも今、あの人はいない。頼まれた私は、逆にあの人に代わって現れたこの人に頼っている。いつかこの人は、あの人が言ったように崩れてしまうのだろうか。あの人はいつも地球に残してきた片割れのことを思って生きていた。
それがあの人の、戦う意味、生きる意味だった。
けれどそれすらもう残っていないこの人が崩れたとき、この人はどうなってしまうのだろうか。私は、この人を支えられる存在に、本当になれるのだろうか。
この人の生きる意味に、私はなれるのだろうか。
END
(20080815)