数えることのできる愛情

「何しに来た?」
「…ライル兄が来いって言ったんじゃない」

一時行方不明になっていたマイスターのひとりが、女を連れて帰って来た。昔収容されていた施設で出会った子らしいけど、俺の記憶違いじゃなければあいつには恋人がいたはずだ。それも一応俺の妹分にあたる奴。寄り添うアレルヤともうひとりを見て、そのまま走り去ったノエルに誰も気づいていないようだったので、放って置けるはずもなく面倒だが彼女を追いかけた。
そして展望デッキで泣きそうな顔をしているあいつを見つけて、「あんな男忘れろよ」と声を掛けた。ずっと俯いているノエルの頭を撫でることなく、「今夜俺の部屋に来たら忘れさせてやるぜ」と冗談半分で言って別れた。
確かに言ったけれども。まさか本当に来るとは思っていなかった。思わず吸っていた煙草を取り落としかける。

ノエルは数時間前と同じように暗い顔のまま俯いている。表情は窺えないが、ずっと泣いていたんだろうなということは安易に想像出来た。兄さんならきっとうまく対処するんだろうが、今ここには自分しかいない。とりあえず煙草の火を携帯灰皿に押し付けて消す。衛生管理者のノエルはライルが喫煙するたびにいちいち注意していたが、今日は何も言わなかった。

…完全に堕ちてるな、こりゃ。

無言のまま立ちすくむ彼女の背に手を回し、そのままベッドに座らせる。夜、男の部屋にひとりで来るということがどういうことか彼女もきっと分かっている。それを承知で俺も声をかけたのだし彼女も来たのだろう。このまま抱いてもいいけど、さすがに妹分に手を出すのは躊躇われる。あと、兄さんにバレたら撃たれる、絶対撃たれる俺。

「他の男のところには行くなよ。何されるか分かんねえぞ」

俯いたままの彼女の頭を少し乱暴に撫でてやる。きっと兄さんと比べたらずっとぎこちないけれど、しないよりはマシだ。かたかたと小刻みに震えている身体を抱き寄せるのは俺の役目じゃない。

「あれだ、ミルクでも飲むか?落ち着くぜ?」

遠い昔、ぐずる小さな妹に両親がホットミルクを飲ませてやっていたことを思い出す。その頃の妹と比べたらノエルはずっと大きいし、もういい大人だ。それでも、今だけはすごく小さく見える。ああ、まだ誰かが守ってやらないといけない存在なんだと思い知らされた。

それをするのは、俺じゃない。お前だろ、アレルヤ。

取り急ぎ入れ立てのミルクが入ったカップを彼女に渡せば、ノエルは両手でカップを包んだまましばらくぼんやりとしていた。しかし、何がきっかけかわからないが、ノエルは泣いた。声を殺して泣く彼女の頭を撫でながら、なんと声をかけたらいいのか模索した。
俺はまだ、上手な慰め方を知らない。


END
(20081116)


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