出し惜しむのももう間もなく

アレルヤが捕虜となり拘束されて生きているという報告を聞いた瞬間、彼の生存を嬉しいと思うと同時に言いようのない感覚が身体中を駆け巡った。

捕虜?

最終決戦から行方が分からなくなっていたアレルヤの生存をずっと信じて、CBの復興に努めてきた。いつか帰って来る。だから、そのときは笑顔で出迎えようと決めた。だからその生きているという知らせが嬉しいことに変わりはない。けれど、捕虜というその言葉が、ずんと重く圧し掛かる。
考えられなかったことではない。あのアレルヤが無事でいるなら四年も何の連絡もないままにいるはずがなかった。だから、彼の身に何かあったのだ、きっと連絡できない状況に置かれていて…と、何度も何度も考えた。
それでも、その可能性から私は逃げていたんだ。捕虜なんて、そんな辛い目に彼が遭っているはずがない。何か事情があるんだ。でも、生きている。
そんな虫の良いことばかり考えてのうのうと生きていた。四年間も、私は。

「嬉しくないのか?」

パイロットスーツに着替えたティエリアが展望デッキに姿を見せる。

「嬉しくないわけないじゃない」

座り込んで膝を抱えたままノエルが言えば、頭上から小さく溜息が聞こえた。じゃあ何でアレルヤ奪還作戦開始間際にこんなところに引きこもっている・と続きそうだ。
けれどティエリアはそれを言わない。この四年、刹那もアレルヤも、…ロックオンもいない状況でずっと相談に乗ってくれ、時には厳しく叱ってくれたのはこのティエリアだ。長い間一緒にいるうちに、彼の中で何かが少しずつ変わっていくのに気づいていた。まるくなった・というのだろうか。

「捕虜ってさ。無理やり自白させられようとしたり、拷問、もされたりするんだよね?」
「捕らえられている機関にもよるが、CBのガンダムマイスターならそうされる可能性も十分あるだろうな」

ティエリアの淀みない肯定の言葉に、ノエルははぁと肺に溜まっていた息を吐き出す。きっと酷い扱いをされていたはず。四年もの長い間、彼はずっと耐えているはず。食事だってちゃんと与えられているのか。眠らせてもらっているのか。殴られたり、蹴られたりしたかもしれない。痛い思いを、絶対にしている。
けれどこの四年間、CBの情報が洩れたり襲撃を受けることはなかった。それは彼がずっと黙秘を続けているということを示している。仲間を思って、帰る場所を守るために。彼はそういう人。

「アレルヤが帰って来るのはすごく嬉しい。でも、アレルヤの四年間を考えたら、考えてたらね」

本当に泣きそうになるの、そう言おうとした瞬間に、ポロッと何かが頬を伝って零れ落ちる感触がして、白い制服に染みを作った。ああ、泣きそうじゃなくてもう泣いちゃった。そう思うと余計に泣けてきた。アレルヤの四年。私がここで守られていたのは、アレルヤがひたすら耐えて守ってくれていたから。帰ってきてくれてありがとう、なんて言葉じゃ済ませられない。

「泣くのなら、アレルヤを連れて帰ってこないぞ」
「…?!」
「冗談だ」

冗談?と思わず顔を上げてティエリアを見れば、彼はこちらを向いてクスリと笑った。鼻で笑うことはあっても、彼がこうやって表情を緩ませて笑うようなこと四年前まではありえなかった。
自然に笑えるようになったんだな、と、彼のこういう笑みを見るたびに思ってしまう。そして冗談まで。なんだか、ニール兄に似てきたかもしれない。

「ぐずぐず悩んでる暇があったらさっさと顔を洗って来い。300秒でアレルヤを連れ戻すんだ。すぐ奴に会うことになる」

そんな顔で恋人に会うつもりか?と、今度はからかいを含んだ笑みをこちらに投げてきた。ああもう、いいように乗せられてる。それでも心配して彼が作戦実行間際なのにここにやってきてくれたのは確かで、こうやって冗談を言いつつ慰めてくれてるんだということは分かる。ノエルは立ち上がって掌で目を擦った。

「顔洗ってくる。だから早くアレルヤを連れて帰って来て」
「ああ」

うじうじ悩むのはやめよう。アレルヤが辛い思いをしたのは分かってる。だから、それをちゃんと受け入れられるようにまずはアレルヤを笑顔で迎えるんだ。それから彼のはなしを聞いて、彼の辛い思いや痛い思いを一緒に背負う。共有する。それくらいしか今の私には出来ないから。


END
(20081102)


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