彼女はそう言って笑ったので

クルーたちの食事の時間も終わり、今は誰もその場にいないはずだった。しかしそのキッチンから、何故か鼻腔を擽るにおいと何か料理を作っているような音が聞こえて、真新しい制服を纏った刹那は何気なくそこを覗いて目を丸くした。

「何をしている」

つい数日前、数年ぶりに再会したCBの衛生管理者がそこにはいた。刹那が思わず声をかけざるを得なかったのは、食堂の机に並べられた料理の数々とキッチンでいまだに料理を作り続けるノエルを見とめたからだ。食事の時間は数時間前に終わっている。そしてこの並べられた料理の量。とても数人のクルーたちで食べきれる量ではなかった。
刹那の驚きを含んだ声を聞いて顔を上げたノエルは、料理する手を止めないままに小さく笑う。

「ご飯、作ってるの」

それは見なくても分かる・と刹那が口を尖らせれば、そっか、ごめんね・とまた彼女は笑った。四年前に比べると大人びた彼女の長かった髪は、今は肩くらいの位置まで短くなったいた。ノエルが髪を切った理由は、願掛けだと誰かが言っていた。その願掛けの内容を、自分は知らない。けれど、誰も何も言わなくとも、彼女が何を願ってるのかは誰もが理解していた(それは自分も同じ)。

しばらくその場にいた刹那は、彼女が黙々と調理している姿を見る。そうしていると、ノエルが陰を含んだ笑みを浮かべて言った。

「アレルヤ、お腹すいてると思うから」

彼女の口から出たガンダムマイスターの名前に、刹那は思わずノエルを見やる。彼が捕虜になっていると聞いたのは、自分がCBに復帰してすぐのこと。そして、数時間後には彼の奪還を目的とした任務が行われる。

「帰ってきたら、いっぱい食べて貰おうと思って」

そう言って彼女は出来上がった料理を大きな皿に移した。刹那、ちょっと食べていってもいいよ?という彼女の申し出を断って、刹那は部屋を出るため踵を返そうとしたがそのまま立ち止まり、彼女を見据えた。

「あいつが帰ってきてからではいけないのか?」

せっかくの料理が冷める。そういう意味を汲み取ったのだろう。ノエルは一瞬呆けたが、すぐに笑って、「そしたらまた作り直すもの」と朗らかに言う。だから、と続けた彼女は、はじめて調理の手を止めて刹那を見つめた。その瞳は大きく揺れていて。

「だから、お願い刹那。アレルヤを、連れて帰ってきてね」

気丈に振舞っていたが、実際は不安で不安で仕方がないのだろう。彼女はそういう女だ。だから、何かで気を紛らわすために料理に没頭してその不安を打ち消そうとしている。四年前までは彼女を見上げるしかなかった刹那だが、今は彼女より身長が高い。いつの間にか小さくなっていた彼女を見下ろしながら、頷いた。 

「ああ、約束しよう」


END
(20080804)


きっと自分があいつを連れて帰ってくるころには、もっと料理が増えている。


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